省くという選択。IWC for PRADA(プラダ)「GSTクロノ オートマティック 記念限定コラボ」IW370802 2021年2月8日
2021-02-08 10:30
今回のエバンスブログは「IWC GSTクロノ オートマティック PRADA(プラダ)」Ref.IW370802のユーズドウォッチをご紹介します。2002年に発表された、IWCとPRADAのダブルネーム限定ウォッチで、発売当時に話題となった1本です。
映画「プラダを着た悪魔(2006)」、小沢健二の曲「痛快ウキウキ通り(1995 ♪プラダの靴が欲しいの~ という歌詞で始まる)」など、女性の憧れブランドという印象が強い「PRADA(プラダ)」。男性的で渋めな印象のある「IWC」とは、意外な組み合わせのような気もします。
GSTクロノ PRADAの概要
(今回の時計 「IWC GSTクロノ オートマティック PRADA(プラダ)」IW370802 2000本限定)
こちらの「IWC GSTクロノ オートマティック PRADA(プラダ)」は、2002年発表、2000本限定のメンズウォッチ。プラダのヨットチーム「ルナ・ロッサ(LUNA ROSSA=赤い月という意味)」の、2003年「アメリカズカップ」への挑戦(と、2000年大会での活躍)を記念したモデルとなります。ステンレス素材で日付・曜日表示付きの自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載します。
PRADA(プラダ)
イタリアの高級ファッションブランド「PRADA(プラダ)」。プラダ一族で経営するアパレル企業です。
1913年にミラノで、プラダ兄弟が興した革製品店がルーツ。高品質で上品なレザーバッグ等で、一時はイタリア王室御用達となりました。
1978年に、3代目のミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)がデザイナーに就任、夫となるパトリッツィオ・ベルテッリ(Patrizio Bertelli)を経営パートナーに迎えます。「日常を贅沢に飾る」をコンセプトに、特殊ナイロン素材を用いたバッグで1980年代に大ヒット。その後、シューズ、ウェア、兄弟ブランドのミュウミュウなど展開を広げます。
多角化に乗り出し、一時はヘルムートラング、ジルサンダーなど世界的な著名ブランドを擁した時期もあります。
2019年に「リネア・ロッサ(=赤いライン)」という名で、かつての「プラダスポーツ※」が復活。同じく2019年以降、3回に渡ってアディダス社と特別な限定シューズを手掛けるなど、若いジェネレーションにもプラダの人気と注目度は高まっています。
(※プラダスポーツは、赤いラインが目印で、スポーティーでスタイリッシュな高機能ウェアとして人気を博しました。)
PRADAとヨットレース
(ルナ・ロッサチームとウブロのコラボレーション 「ビッグバン ルナロッサ」301.CM.131.RX.LUN06)
プラダのヨットチーム「ルナ・ロッサ(LUNA ROSSA)」。イタリアのサルディニア島、カリアリを本拠地とするセーリングチームです。1997年に、世界最高峰で「海のF1」とも評される「アメリカズカップ」を目指して設立。プラダのベルテッリCEOとアルゼンチンのヨットデザイナーの出会いがきっかけだったとか。2000年に王者への挑戦権を獲得したり、今年2021年も挑戦権を争う2艇にまで残る※など、世界有数の強豪セーリングチームとして知られます。
赤いラインが印象的なルナ・ロッサ艇は、同じ1997年にデビューした先述の「プラダスポーツ」と印象が重なります。相乗効果を狙う意味もあったのでしょう。
ルナ・ロッサチームは、2006年にウブロと、2019年以降はパネライと限定コラボレーションの時計をリリースしています。いずれも「LUNA ROSSA」名だけが入り「PRADA」名は入っていないモデルとなります。(参考 →過去ブログ「HUBLOT×PRADA」)
(※追記 その後、ルナロッサチームは挑戦権決定戦を勝ち上がり、2021年3月6日からのアメリカズカップで現王者のニュージーランドチームに挑戦。3勝7敗で惜しくも敗れました。)
IWC、GSTシリーズ
(ステンレス素材の「GST パーペチュアルカレンダー」IW375607 (3756-007)。スポーティーな外観にシンプルな操作性の1本)
アメリカ人技術者F.A.ジョーンズが、ドイツ国境の近くシャフハウゼンで創業した「IWC」。150年を超える歴史があります。スイスのウォッチブランドでは珍しく英語の「International Watch Company」から命名されています。シンプルで質実剛健な高級時計を手掛けるブランドとして、根強い人気があります。
「GST」シリーズは、ポルシェデザインとの業務提携が解消した後の、1997年から2003年頃に作られていたコレクション。(G)ゴールド、(S)ステンレス、(T)チタン、3つの素材を使用したことから命名されました。永久カレンダー、クロノグラフなどの、複雑機構を備えたスポーティーモデルもラインナップされた意欲的なシリーズでした。
GSTクロノ PRADAを見てみましょう
(■GSTクロノ PRADAは、2トーンカラー文字盤の2つ目クロノ ■リューズは、防水性のある時計に入っていた「魚マーク」)
IWCとPRADAの組み合わせ
質実剛健なIWCとスタイリッシュなプラダ。意外な協業ですが、ヨット愛好家でもあるプラダのベルテッリCEOが元々IWCの大ファンで、IWCに打診し実現したのだとか。
このモデルが登場したのは2002年。シャネル「J12」(2000年発表)や、ルイヴィトン「タンブール」(2002年発表)など、ハイブランドが高級腕時計界で本格的に存在感を示し始めた時期でもありました。
「ルナ・ロッサチームのアメリカズカップ記念モデル」にもかかわらず、「PRADA」名でコラボレーションを行ったのは、PRADAブランドの拡充を意識した戦略という一面があったのかもしれません。
元モデル「GSTクロノ」
PRADAモデルの元になったのは「GSTクロノ」のステンレスモデル。40mmサイズの自動巻きモデルには、ブラック文字盤(IW370708)とホワイト文字盤(IW370713)がありました。日付、曜日の表示付きクロノグラフで、付属のピンでブレスレットのコマの取り外しが容易な仕様となっていました。
PRADAモデル
(■1 曜日が「英語」のPRADAモデル 2 曜日が「イタリア語」のPRADAモデル、GIOは木曜日 ■3 ベースとなった「GSTクロノ」黒文字盤(IW370708) 元モデルはポリッシュ仕上げの面が多い 4 白文字盤(IW370713)、針とインデックスはゴールド)
このPRADAモデルでは、9時位置インダイアルの秒針を廃し「IWC for PRADA」のロゴに変更。インダイアルはクロノ30分積算計と12時間積算計の2つとなりました。文字盤外周の目盛りは筆記体ロゴ&タキメーターでなく分目盛に変更。シルバーと黒のパンダダイアルになり、日付曜日表示を残しつつも、全体にシャープな印象となりました。
ロゴのラインやクロノ秒針の赤色使いが、ルナ・ロッサチームやプラダスポーツの印象とリンクしています。
PRADAモデルは、曜日表示が「英語」と「イタリア語」の2種類があり、今回の1本は英語表記となります。リューズは当時の「魚マーク」が入ったものです。
デザイナー
PRADAモデルをデザインしたのは「ジャンピエロ ボディーノ(Giampiero Bodino)」。パネライの時計の数々やリューズガードを模した「ダブルリングブレスレット」、モンブランの「スターウォーカー」ペンなど、リシュモングループで活躍した人でした。
限定感ある裏蓋や箱
時計の裏面には刻印「IWC for PRADA」と限定番号「XXXX/2000」、箱も特別仕様で内箱のプレート部分にも限定番号が入っています。ちなみに、外箱の地図の絵柄は、ニュージーランド。2003年アメリカズカップの開催地でした。
ムーブメントは、バルジュー7750(ETA 7750)がベースのCal.7923。バルジュー7750は、オメガ、パネライ、チュードルなど多くのブランドに採用され、定評のある自動巻きクロノグラフムーブメントです。
記念モデルらしくない珍しい1本
(■インデックスの端にも夜光塗料が塗布されている ■腕周り約16.5cmのスタッフが腕に乗せてみました。)
「IWC GSTクロノ PRADA」いかがだったでしょうか? ルナロッサチームやアメリカズカップの名前が入っていない、記念モデルらしくない1本であり、9時位置の秒針を省くというのも賛否両論あるかと思います。その大胆なアレンジのおかげで、元モデルと違うすっきりした1本に仕上がっています。
約20年の月日が経過し、内箱には経年変化が出てしまっていますが、時計自体のデザインは古さを感じさせないモダンさがあり、ドイツ的なIWCとイタリアンなプラダの個性が組み合わさった珍しい1本といえそうです。