エバンスのオンラインショップ担当の大貫です。
時計に興味のない方でもご存じのブランド「ロレックス」。最近ではインターネットの発展や情報発信のあり方、 SNSの普及により製造プロセスなど、詳細な情報を知ることができる時代になりましたが、以前のロレックスは情報がほとんど非公開となっていたため、謎の多いブランドとして有名でした。
時代は変わり、以前は謎だったものが、徐々に解明きてきた内容もあります。
今回は、通称「トリプル・ゼロ」として知られる謎のサブマリーナ・デイト「Ref.168000」について調べてみました。
「Ref.168000」が“謎”と言われる理由
サブマリーナの正式な系譜として存在するのは「Ref.16800」。1980年~1988年まで生産され、その中でもインデックスに金属製の縁の有無により前期(1980~1985年頃)、後期(1985年~1988年頃)に分かれます。
その「Ref.16800(後期)」と、今回取り上げた「Ref.168000」は、外見や性能、ムーブメントも同一でありながら、型番が異なる点が“謎”と言われており、 見た目では全く区別がつかず、唯一ケース側面に刻印されたリファレンス番号でのみ判別が可能となっています。
1988年発表の Ref.16610 以前に生産されいた「Ref.168000」。ロレックスをある程度ご存じの方には、この6桁の型番に違和感を感じるところです。当時は4桁や5桁の型番が通常で、2000年頃に6桁型番が登場しますが、1980年代で6桁型番は非常に特殊なものです。
また、本体の刻印は「168000」でありながら、メーカー発行の国際保証書の型番は「16800」となります。さらに裏蓋の内側にも型番が入るものの、こちらも「16800」。修理の際の型番も「16800」なのです。本体の刻印だけが唯一の証明となり、そのため『謎のモデル』と呼ばれます。
16800と168000のスペック
同じデザイン、同じムーブメントを持つ16800(後期モデル)と168000。スペックは以下の通りとなります。
- 直径:40mm
- 素材:ステンレス
- 防水:300m
- 文字盤:ブラック
- 風防:サファイアガラス
- ムーブメント:Cal.3035
- ブレスレット:93150
様々な説
謎に包まれた「Ref.168000」。これまでも諸説ありましたので、最新の情報をもって検証してみたいと思います。
旧型(16800)と新型(16610)の繋ぎモデル説
少し前まではの説では、16800から16610に切り替わる1988年を境に、ごく少数生産されたレア個体ではないかという説がありましたが、1年未満の生産期間の割りには個体数が多いのが現状です。
1987年~1988年頃のシリアル番号「R」の個体が多いものの、それ以前の91****の個体や、1986年記載のギャランティの確認もあるため、Ref.16800の後期モデルと同様に、1985年頃から製造されていたものと思われます。
また、Ref.16800においても、R番(1987年~1988年)の個体が確認されいるため、「Ref.168000」と同時生産されていたようですね。
ダイアル仕上げ説
文字盤の塗装が異なるという説もあります。Ref.16800よりもRef.168000のほうが劣化具合が大きい“らしい”という程度。実際は、個体差や環境で劣化の度合いが違いますので、信憑性は低いと言わざるを得ません。
文字盤の仕様の違いで言えば、インデックスの縁の有無で型番が変わらないので、個人的には『塗装違い説』は無いように思います。
素材説
いま最も有力なものが、ステンレスの素材が異なる説。現在では「オイスタースチール」と呼ばれるステンレス『904L』を採用したサブマリーナが「Ref.168000」と言われています。
当時、ロレックスは他社と同様に高級ステンレス『316L』を採用していましたが、ロレックスでは1985年頃から、より耐蝕性に優れるスーパーステンレス、『904L』へ変更していく過渡期でありました。
『904L』のスーパーステンレスを使用したものが「Ref.168000」ではないでしょうか。各ステンレスの含有成分は以下の通りですが、精密な成分分析機でなければ判別は困難です。
成分 | カーボン | クロム | ニッケル | 硫黄 | モリブデン | 銅 |
304 | <0.08% | 18~20% | 8~11% | <0.03% | ― | ― |
316F | <0.08% | 16~18% | 11~14% | 0.10~0.15% | 2~3% | ― |
316L | <0.03% | 16~18% | 12~15% | <0.03% | 2~3% | ― |
904L | <0.01% | 19~23% | 23~28% | <0.035% | 4~5% | 1~2% |
ステンレスの材質別特徴は、下記の記事で解説しています。
各モデルの製造時系列
“トリプルゼロ” Ref.168000の正体
同時期に販売していた同じムーブメント(cal.3035)を持つシードゥエラーでは、このような仕様は無く、サブマリーナ デイトのみに起こった変化です。当時としては異例の6桁表示ではあるものの、GMTマスター コンビ Ref.1675/3の様に、4桁+素材コード(ステンレスの場合は「0」)で表す場合もありましたので、【Ref.16800/0】という意味だったのではないでしょうか。
何はともあれ、試験的なモデルであり、生産数としても決して多くはないでしょう。2023年6月時点の中古相場では、16800(後期)と大きな違いはありませんが、今後が楽しみな1本と言えます。