「師・グートケスへのオマージュ時計 ”ランゲ&ゾーネ ツァイトヴェルク”」2018年9月18日
2018-09-18 11:00
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銀座エバンスの稲田でございます。
すっかり涼しくなりましたね。
出掛けやすい気候ですのでみなさま是非、エバンスに遊びにいらっしゃって下さいね。
さて、本日はランゲアンドゾーネから” ツァイトヴェルク ”のご紹介です。
2009年発表のZeitwerk(ツァイトヴェルク)とは、Zeit=時間/werk=仕事/Zeitwerk=タイマーという意味を持ちますが、タイマーでは味気ないので「時間を表示するのための仕事」をしている時計、すなわち一目で時間が読み取れる”デジタル表示”を持つ腕時計という意味ではないかと私なりに解釈しました。
デジタル表示とは、一般的には液晶に数字が表示されるクォーツの時計を思い浮かべる方が多いとは思いますが、ここでは0~9の数字板の組み合わせによる時刻表示のことです。
今回ご紹介するツァイトヴェルクはランゲ社初のデジタル表示腕時計で、逆にアナログ時計とは、針で時間を表示する機械式時計のことですが、同社はなんとデジタルとアナログを組み合わせた腕時計をすべて自社で製作・開発、その背景は計り知れない苦労があったことと思います。
というのは同社の技術者達は長年の間、幾度となくこの時計を作ろうと試みていたそうです。
例えば数字板を常に回転させる機構や、懐中時計に見られた大きな数字が記された回転ディスクで時間を示すパルヴェーバー方式という機構を用いた時計を製作しましたが、これらは時間を送る際に大きなエネルギーを要し、部品が耐え切れずリザーブも僅かしか持ちませんでした。
そこで卓越した技術を持つランゲ社の時計師達が試行錯誤の上考案したのは、”瞬転数字メカニズム”といってその名の通り三枚のディスクを瞬時に回転させて時間を表示する仕組みです。そして数字を送る際に生じる大きなエネルギーを吸収する役割を果たす香箱を備えた機構を長年かけて完成させたのです。
これはムーブメントと同じ直径の1~12の数字が書かれた時間を示す大きなリングディスクと、0~5、0~9の数字が書かれて重なった二枚の分ディスクによって構成されています。常に明瞭に時間が読み取れるよう、数字の大きさはすべて同じです。(上の写真をご覧下さい。LHPより引用)
また動力制御メカニズムも備えており、ゼンマイの入っている香箱車と時計の心臓部であるテンプの間に特別な部品を置くことで、一分間のほんの一瞬ゼンマイの力を解放してこの瞬間に数字ディスクを一マス進め、小さな動力制御用ゼンマイを巻くという画期的な仕組みです。
60秒間この小さなゼンマイがテンプにエネルギーを伝えて振動を制御し、更にディスクの切り替わりのタイミングをも完璧にコントロールしているのです。
このモデルの最大の特徴は文字盤の斬新さで、ランゲの他のモデルや無論、他ブランドにはない趣のある仕上がりとなっています。この特徴的な部分を同社では”タイムブリッジ”と呼んでおり、実は文字盤デザインではなく文字盤をくりぬいてムーブメントの一部をあえて見せているんですよ。
時、分、秒をひとつのフレームのように見せるこの手法は使い手のことをじっくり考えて編み出した形ですし、このフレームにより、大きな数字と共に更に明瞭に時刻の読み取りが可能になるのです。
且つシンプルな作りは一目でランゲ&ゾーネ作品だとわかりますよね。しかしその内部は複雑で、415個・68石もの部品で構成されているキャリバーはL043.1で、その美しい全容を大きく開いたシースルーバックからご覧いただけます。
また、数年前の私のブログ「アドルフ・ランゲの意志を継ぐ伝統時計 “ランゲ&ゾーネ1815”」でお話したグートケスの五分時計のお話をみなさん覚えてらっしゃいますでしょうか。ゼンパー・オーパーの名物、大きなデジタル表示の壁時計(上の写真左、chronosより引用)が五分時計、その横の写真が十分の一の模型ですが何かに似ていると思いませんか?
そうです、今回ご紹介するツァイトヴェルクなんです。ランゲ1やツァイトヴェルクなど、日付や時間表示がデジタル方式になっている時計は、創始者アドルフの師・グートケスと若き日のアドルフが製作したこの五分時計をモチーフとして製作されているんですよ。正にグートケスへのオマージュ作品、今回のブログの題名とさせていただきました。
ランゲ社の理念である”完璧な時計づくり”は、前述のメカニズムの正確さを求めるだけに止まりません。
下の写真をご覧下さい。ムーブメントの板の種類によって模様が違うのがお分かりいただけますでしょうか。特に時計の心臓部であるテンプ近くの部品(テンプ受け)には美しい彫金が施してありますよね。
実はこれらはすべて熟練の職人の手彫りによるもので、同じ型番でもよく見るとそれぞれがひとつひとつ違う仕上げになっているそうで、すなわち世界で唯一つの作品と言えるのです。そして目に見えない部分も手を抜くことなく、美しい装飾を施すという拘りもランゲ社の伝統の一貫としてこれからも続くことでしょう。
伝統には他にも要素があり、受け石(摩耗を軽減するための石のこと)の周りのゴールドシャトン(シャトンとは宝石を留める枠のこと)は昔、高級機のみに採用されていた部品ですが、同社は今も昔も大切な伝統としてつくり続けています。ゴールドシャトンの役
割は、受け石が破損してしまった際にムーブメントの穴の大きさを変えることなく、新しい受け石に交換がしやすいようにするための部品ですが、見た目の美しさだけでなく、技術的な面でも考え抜かれた設計は真面目なドイツ気質を感じます。金の枠に赤いルビー、青のネジ。これらは美しいムーブメントを更に彩り、華やかなものにしてくれるのです。
4分の3プレートも大切な伝統のひとつです。写真でも分かるように、ムーブメントの3/4を大きな板が覆っていますよね。一見、簡単な構造に見えますが実はこの中に複雑に輪列が組み込まれているのです。
この部品は各歯車が安定するよう、また塵や埃などから守るために作られたのですが、例えばどこかがほんの1ミリでも噛み合わなければうまく作動しません。
しかももう一つの伝統ですが、ムーブメントの素材にどのブランドも採用している真鍮を使わず、同社ではジャーマンシルバーと呼ばれる洋銀を採用していて、この素材が本当に繊細で少しでも指紋や皮脂などが付着すると黒く跡が残り、扱いに大変な配慮を要するそうです。この洋銀にペルラージュやコート・ド・ジュネーブといった装飾を手作業で施し、慎重を期して組み立てていく。そして前にもお伝えした通り、一度組み立てたものを分解し、もう一度組み立てなおす。広い時計業界の中で唯一、二度組みを行っている徹底した拘り、偉大な創始者の遺した大切な伝統を今もなお後世に、腕時計という小さな世界にひとつの作品として残していくブランド、それがランゲ&ゾーネです。
創業者アドルフ・ランゲの遺志を継ぐ時計師達が、彼が生涯追い求めた「完璧な時計」づくりを今もこの瞬間も考えて設計して組み立てていると想像すると、感慨深いものがありますね。
私は今まで何度かランゲ&ゾーネのブログに携わって来て、その作品に、歴史に触れて今回の大作、ツァイトヴェルクに出逢えました。こんな素晴らしい作品を実際手に取ることができて、本当に感謝しかありません。もしかしたらランゲ作品で一番好きなモデルかもしれないこの熱を、ブログでみなさまにお伝えしたいのです。ちなみに検索の窓で「ランゲ」と入力して検索をかけると、先程ひとつだけご紹介しましたが、これまでの私の3つのブログが出てきますのでお時間ある時是非、ご覧になってみてくださいね。
このブログをご覧になって気になられた方、お早めにお越し下さい。売れてしまうと次いつ出逢えるかわかりませんから。
みなさまのご来店、お待ち申し上げております。