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今さら聞けない オメガ「コーアクシャル」の常識

2020-03-04 11:00

エバンス オンラインショップ担当の大貫です。

オメガをお持ちの方、また購入をご検討されている方は、「コーアクシャル」という単語をご存じかと思います。今回は知っているようで、よく知らない。そんなワードをピックアップしてみました。

現在、オメガのほとんどのムーブメントは“コーアクシャル”と呼ばれていますので、耳にすることは多いのではないでしょうか。いまではオメガでは一般的な名称となり認知度もありますが、そもそも「コーアクシャルって何?」と思っている方も多いと思います。

ざっくり言うと…


・革新的なムーブメント機構。
・オメガにしか使われていない。
・オーバーホールの間隔が長い。
・最近は磁気対策がスゴイ。

といったところでしょうか。今回はオメガの“コーアクシャル”について、さらに分かりやすく解説したいと思います。

アクアテラ コーアクシャル・マスタークロノメーター

オメガのみに採用される「コーアクシャル」とは

“同軸”という意味の「CO-AXIAL(コーアクシャル)」。

“コーアクシャル”は、正確には時計の心臓部である脱進機(エスケープメント)のことを指します。正式名称は「コーアクシャル・エスケープメント」です。

コーアクシャルは、脱進機の摩擦軽減によりメンテナンスサイクルを長期化することが出来るという夢のようなムーブメント。一般的な機械式時計では、4年~5年に一度のオーバーホールが必要ですが、コーアクシャルの場合は8年~10年が目安となっています。

なお、「脱進機」についてですが、ガンギ車とアンクルというパーツで構成され、ゼンマイの動力を規則正しく、一定速度で歯車が回転するための仕組みを「脱進機」と呼びます。テンプに対して往復運動するための力を与え続けるとともに、テンプからの規則正しい振動で輪列を制御します。

脱進機はアンクルという部品についている2つの爪石が、円形のガンギ車と呼ばれる歯車の停止と回転エネルギーの伝達を担っており、アンクルの爪石は1秒間に5~10回接するなど摩擦が最も激しいパーツです。

アンクルとガンギ車
出典:ロレックス公式サイト  
https://www.rolex.com/ja/about-rolex-watches/movements.html

コーアクシャル脱進機は、従来のスイスレバー脱進機にかわり、およそ250年ぶりに新たな機構として発表された革新的な脱進機です。非常に優秀なコーアクシャル脱進機は、現在オメガのほとんどのモデルで採用されています。


コーアクシャルの特徴と仕組み

コーアクシャルムーブメントのオーバーホールの間隔は8年~10年に一度。一般的な時計に比べ2倍の期間ですので、メンテナンスの費用は半分に抑えられることになります。コスパに優れる時計と言えますね。

通常は1枚のみのガンギ車が2枚となり、それを同軸上に重ねて配置。またアンクルの爪が4つとなり、アンクルとガンギ車、ガンギカナを二重共軸車によってエネルギーの分散が図られ、摩擦の軽減に成功しています。

コーアクシャル・エスケープメント
出典:スウォッチグループ公式サイト(海外)
https://www.swatchgroup.com/en/services/archive/2010/omegas-co-axial-story

注油をほとんど必要とせず、機械摩擦も少なく、エネルギー効率も良い。これまでのスイスレバー脱進機よりも長期間安定した精度を保つことが可能になりました。


コーアクシャルはオメガの発明ではない

オメガのみに採用される「コーアクシャル・ムーブメント」ですが、実はオメガの発明ではありません。

コーアクシャル は、イギリスの時計師ジョージ・ダニエルズ博士によって1978年に考案された脱進機(エスケープメント)。かなり以前からあった概念ですが、オメガから発売される前は、博士が作成したプロトタイプの時計に搭載されただけでした。

ジョージ・ダニエルズ博士
ジョージ・ダニエルズ博士
出典:オメガ公式サイト
https://www.omegawatches.jp/ja/chronicle/1999-a-revolutionary-new-escapement

ダニエルズ博士は、複雑な脱進機を量産化する技術と、時計製造できる有名ブランドが必要と考え、パテックフィリップやロレックスなど一流メーカーで量産を依頼したものの、当時はその複雑な構造の為、またコスト面や厚みの問題もあり、手を伸ばす企業がいなかったようです。

結果、オメガを含むスウォッチグループ内のETA社で量産が始まるわけですが、ETA社も一度は断ったそうです。もしかしたら「ロレックスのコーアクシャル」となっていた可能性もありましたね。

当時のオメガを有するグループ(現スウォッチグループ)のトップであったニコラス・G・ハイエックが、1993年にジョージ・ダニエルズ博士から技術を買い取り、開発がスタート。

当初は、オメガとブランパンに搭載予定だっといいますが、ブランパンに使用されていたフレデリック・ピゲ社製のムーブメントは薄く、搭載が困難となり、条件に合うオメガのキャリバー1120をベースに1995年試作機が完成し、1999年に製品化されます。後にフレデリック・ピゲ社製のクロノグラフムーブメントにコーアクシャルが搭載されますが、結局ブランパンでは採用されていません。

コーアクシャル キャリバー2500
初期のコーアクシャル Cal.2500

耐磁性へのこだわり

オメガの「マスターコーアクシャル」は、高い耐磁性が備わっています。目に見えない“磁気”ですが、日常生活での磁気の発生源は、スピーカーやヘッドフォン、電子レンジ、モーター、携帯電話。またタブレットPCを固定する専用保護カバーに付いているマグネットからも発生しています。

オメガでは当時、メンテナンスが必要な時計の54%が磁気帯びをしていたそうです。そこでオメガは磁気帯びの問題を一掃しようと考え、2013年にひとつの特殊モデルが発表されます。従来のムーブメントを元に、高い耐磁性能に特化した、 「オメガ シーマスター アクアテラ 15,000ガウス(Ref. 231.10.42.21.01.002)」が発表されました。

Ref. 231.10.42.21.01.002

従来の耐磁時計では、軟鉄製ケースでムーブメントを覆い、日付も付けられないことから、新しいアプローチで新設計し、ムーブメント自体を非磁性にすることで対応したそうです。翌年には「マスターコーアクシャル」として量産化されています。

磁束の影響を最も受けやすい可動部品が、テンワやヒゲゼンマイ、アンクル、ガンギ車といった脱進機部分を中心に、スウォッチグループ内のニヴァロックス社にて開発された非磁性の新素材「ニヴァガウス」やシリコン、ニッケル-リン合金、チタンなど非鉄素材を使用することで実現しました。

出典:オメガ公式サイト 
https://www.omegawatches.jp/ja/stories/state-of-the-art

公式の耐磁性能は1万5000ガウスですが、非公式には8万5000もの超高耐磁ムーブメントなっているそうです。日常では磁気帯びの可能性はほとんどなくなり、かつシースルーバック仕様やデイト表示もできる様になっています。

マスターコーアクシャルのムーブメント
マスターコーアクシャルのムーブメント

マスタークロノメーターとは

オメガのマスターコーアクシャル用に作られた新たな認定規格が「マスター・クロノメーター」規格。現状はオメガのみ採用される規格となっています。オメガが企画したテストですので、当然ですね。 (2021年にTUDORで採用されましたので、今後も採用するブランドが増えそうです)

マスター・クロノメーター は、2015年発表の「グローブマスター」に初搭載されました。

クロノメーターに関してはご存じの方は多いと思いますが、「マスター・クロノメーター」は、クロノメーターの認定を受けた後、さらにスイス連邦計量・認定局(METAS)が定めた8つのテスト(3つの精度テスト、3つの耐磁テスト、パワーリザーブ、防水テスト)を受け、15000ガウスの耐磁性能、日差0~+5秒以内であること確認するなど、2つの規格に認定される最高水準の精度、耐磁性を備えたムーブメントです。

オメガ グローブマスター
2015年発表のグローブマスター

コーアクシャルの変遷

現時点(2020年3月)まで、大きく分けて5つのターニングポイントがありましたので、時系列で解説して参ります。文字盤に記載されている表示がポイントです。併せて画像をご確認ください。

1999年 限定モデルで初デビュー

最初期モデル従来のETA社製ムーブメントを改良しコーアクシャル脱進機を初搭載し、1999年に限定モデル「デ・ビル コーアクシャル」を発表。イエローゴールド、レッドゴールド、ホワイトゴールド、プラチナ素材のラインナップ。またスケルトンモデルも用意されました。


2002年  シーマスター・アクアテラの登場

それまではデ・ビルシリーズに搭載されてきたコーアクシャル・ムーブメントですが、2002年に発表されたシーマスター・アクアテラに搭載されたことで一気に普及しました。

初期アクアテラ

2007年 30年ぶりのオメガ社製ムーブメントの開発

コーアクシャル専用のムーブメントを開発。30年ぶりとなるオメガ社製ムーブメント「Cal.8500」が誕生。翌2008年からシリコン製ヒゲゼンマイが採用されるようになりました。

プラネットオーシャン

2014年 ムーブメントの非磁気化

上記の自社開発ムーブメントに磁気を帯びない素材を使用することで、15000ガウスもの耐磁性能を獲得した「マスターコーアクシャル」が登場。

アクアテラ マスターコーアクシャル

2015年 マスタークロノメーターの採用

クロノメーターに加え、新規格であるスイス連邦計量・認定局(METAS)のテストを行った高精度、超高耐磁仕様の「マスタークロノメーター」が誕生。

シーマスター プロフェショナル

コーアクシャルの名称は色々ありますが、耐磁性能+クロノメーター が「マスターコーアクシャル・クロノメーター」。それに加え、METAS認定の時計が「コーアクシャル・マスタークロノメーター」になるという、やや分かりにくい仕様になっています。

確かに「マスターコーアクシャル・マスタークロノメーター」はクドイ感じがしますね。


コーアクシャルのデメリット

初期のコーアクシャル(Cal.2500)では、携帯精度や主ゼンマイのトルクといった問題が少なからず見受けられたようですが、2007年に自社製ムーブメントへ切り替わって以降は、デメリットという点は思いつきません。

強いて挙げるならば、特殊な構造の為、オメガのみでの整備が必要という点でしょうか。気軽に町の修理店でオーバーホールを行うのが難しくなっています。オメガへの持ち込み、もしくは郵送が基本となりますね。

シーマスター300 マスターコーアクシャル

完成形ともいえるコーアクシャル。今後の発展も気になるところです。

 
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