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店主のいるお店/30年前の時計店事情を振り返る

2020-06-15 11:00

エバンスブログをご覧の皆様、こんにちは。いつもご覧頂きありがとうございます。本日は、ちょっと趣向をかえて【店主のいるお店】という事について、お話してみたいと思います。

機械式時計ブーム創成期

まず初っ端から私事で恐縮ではありますが、私、前職は全く時計とは無縁の職業に就いておりまして、元々機械式の時計が好きで、転職を機に現在のエバンスに入社しこの世界に入りました。

私が腕時計、特に機械式の古い腕時計が好きになったきっかけは、地元の蚤の市で出展していた骨董屋さんから、3000~5000円くらいのセイコー、シチズンの古い機械式の時計を買った事から始まりました。古くて傷だらけでしたが、その雰囲気に魅了され、取りあえず動いている物を買っては、自分でケースやブレス、風防などを磨いたり、裏蓋を開けて中の機械を見てはニンマリしていたものです。

さらに興味が湧いて色々と調べたくなったのですが、当時(1990年代前半)は、もちろんインターネットも無く、時計の雑誌など全く発刊されていない状況でした。唯一、現在でも発刊されている「世界の腕時計」が2ヶ月に一度発売されていただけで、その中に(現在の本書にはもうそのコーナーはなくなってしまいましたが)当時はロレックスを始めとした、所謂スイス製のアンティーク時計を40~50本程を紹介するコーナーがありました。それを貪るように読んで、2ヶ月間が待ち遠しかった記憶がございます。

世界の腕時計№7(1991年)より

そのうち、本を読んでいるだけでは物足りず、実際に掲載されている時計が欲しくなりましたが、当時はインターネット検索など出来るはずもなく、どうするかと言えば、自分の足でその本に紹介されていたお店巡りをするしか方法がなかったのです。当時の時計店といえば、アンティーク時計がメインで、現在の時計店とは幾分異なった雰囲気を持っていました。また現在の雑誌等のショップ紹介では「店長、マネージャー、コンシェルジュ」等のワードが主に出てきますが、当時は「店主」という言葉がメインだったと記憶しています。

当時の時計店巡り

ここからは、現在のデイトナ・マラソンではないですが、当時の個人的な時計店巡りの話に暫くお付き合いください。

「世界の腕時計」を見て、私が一番最初に欲しいと思った時計は、普通の3針で、黒い文字盤のロレックスというザックリとした希望でした。それに見合う時計が在ったのが、当時、横浜の元町にあった【クラフト】という名前のお店で、まずそこから私の時計店めぐりが始まりました。

主流はアンティーク

アンティーク時計など全くの素人だったので、最初はかなり敷居が高く感じ、入るのに結構勇気がいりましたが、店主の方とお話すると、“時計を売る”というスタンスは全くなく、どこから来たのかとか、世間話に時間を費やし、結局お店を出る寸前に希望の時計を見せてもらったという記憶があります。その後も何度か伺いましたが、一度サブマリーナの初期型を1週間の約束で取り置いて頂いた事があり、その時はこちらの仕事の都合で来店がかなわず、1ヶ月後に「もう売れてしまっているだろう」と思いながら来店すると、店主の方が奥の金庫から、『来ると思ってましたよ、基本的に本当に欲しい人にしか売らないから』といって時計を出してきてくれました。とてもおおらかな方で、確か“菅〇さん”というお名前だったと思います。

前職の会社が近かった事もあり、上野には会社帰りに良く寄り道をし、中でも現在でもお店がある【喜久屋】さんには良く通いました。お店の半分にはカメラが並んでいて、そちらのカメラ売り場のスタッフの方(かなり年配の方でしたが)から先輩と呼ばれていた方が、時計売り場の店主さんでした。私の好きな映画「七人の侍」の久蔵のような雰囲気の方で、当時の時計業界のことや、今は無き国産時計メーカー「タカノ」について教えて頂きました。“猪〇さん”というお名前だったと記憶しておりますが、残念ながら、私が時計屋巡りをしていた時期にお亡くなりになってしまいました。「美しい時の流れ」というお店の宣伝文句が好きで、このブログを書くにあたり思い出したところです。

雑誌の広告事情

当時の時計店の広告は、前述の「世界の腕時計」のページ縦1/4程の帯部分に良く掲載されていて、当時その広告を元に時計店巡りをしたわけですが、掲載スペースが小さいので、殆どのお店は店名や電話番号/地図を時計の写真と一緒に載せていただけでした。

そんな中、横須賀の【太安堂本店】というお店は、そこにオールドムーブメントの解説を広告と一緒に毎号載せていて、元々機械が好きでしたので、物凄く小さい文字でしたが、いつも楽しみに読んでいました。

世界の腕時計 №6(1991年)より

そんな訳で「太安堂本店」さんにも自宅から電車で2~3時間かかりましたが、伺ったことがあります。その時は、今で言う “オメガのスピードマスター4THモデル” が欲しくて伺ったのですが、初めての来店にもかかわらず、店主の“栗〇さん”にはCal.321のどこが凄いのかを延々と教えて頂きました。他にもお客さんがいたにもかかわらず、ゼニスのエルプリメロのお話も含め3~4時間はお店に居たとおもいます。

当時の価格

現在はかなり高額になってしまった、ロレックスのエクスプローラーやサブマリーナなどのスポーツモデルに関しては、横浜本牧にあった【アンティークR】さんに良く時計を見に行きました。横浜は前職の仕事柄出張で良く行く所でしたので、前述の【クラフト】さんと合わせて通いました。<未使用の赤サブ>や、今では殆ど見ない<ミルガウスの6541>などを見せていただきましたが、6541はその時120万円ぐらいの値段が付いていて、お店の人に「現金なら98万円でいいよ」といわれた記憶があります。今では信じられない値段ですが…

こちらのお店は元々西洋のアンティーク家具のお店だったらしく、店内の雰囲気もさることながら、店主の“〇島さん”も長髪を頭の後ろに無造作に束ねた、独特の雰囲気のある方でした。とにかく気さくな方で、なんでもざっくらばんにお話していただきました。こちらでは時計もさることながら、非売品ではありましたがエクスプローラ、サブマリーナ、GMTマスター、デイトナなどの古い取扱説明書を見せていただき感動した記憶があります。今のカラー印刷とは異なる、とても味のある配色の小冊子でした。

当時の流行「バブルバック」

『アンティーク・ロレックスを突き詰めるとバブルバックにたどり着く』と、当時何人かの店主さんがおっしゃておりまして、私もご他聞に漏れず、どっぷりとはまった時期がありました。

当時ロレックスの1016が30万円前後、1655や赤サブが40万円前後、手巻きデイトナ70~80万円、エキゾチック(ポールニューマン)が150万円前後の時代、バブルバックは通常モデルで50~80万円、ユニークダイヤルや18Kで100万円オーバー、ユニークスモセコ、カバード、マジェスティックダイヤルなどASKの表記だったと記憶しています。

個性的な店主

現在も北区の滝野川にある【プライベートアイズ】さんは、当時からバブルバック好きの聖地のようなお店で、店主の“遠〇さん”はアンティーク時計に造詣深く、特にバブルバックを語らせたら右に出る者はいないと言われておりました。お話をしているとつい時間を忘れ、閉店時間を過ぎても平気でずっとお話をしていただきました。いつぞやお昼時にお邪魔したときは、丁度世間で「つけ麺」が騒がれ始めた時で、遠〇さんの愛車で東池袋の大勝軒まで行き、元祖つけ麺をごちそうになった記憶もございます。

現在も中野ブロードウェイで営業されている【ジャックロード】さんには、まだお店がアメリカン雑貨と一緒に時計を販売していた頃に伺った事があり、当時の店主だった“西〇さん”と、『エクスプローラーⅡ(16570)は、なぜ24時間針を単独で動くようにしたのか』を、一緒に話し合った記憶があります。口数は少ない方でしたが、やはり独特の世界観を持った人でした。

他には、六本木の【クラシックダイヤル】さんに、初期のユニバーサル トリコンパックスを。原宿の【ワンミニッツギャラリー】さんには、チューダーの今で言うカマボコのクロノの新品を。当時、青山のハナエモリビルの地下にあった【シェルマン】さんには、パテックフィリップのトロピカルを。青山の骨董通りの【インサレント】さんには、当時日本に紹介されたばかりのフランクミュラーなどを見に行った記憶があります。

長くなってしまいましたが、以上が大まかな私の時計巡りの記憶です。なにぶん古い記憶ですので、お名前等間違っておりましたら、お詫び申し上げます。ただいずれのお店でも、そのお店で何の時計を買ったのかは忘れても、お店の雰囲気と共に、各々の人間味溢れる店主さんの顔は今でも鮮明に覚えています。

店主のいるお店

冒頭にもお話しましたが、当時はインターネットなど無く、欲しければ自分の足でお店まで赴くしかありませんでした。遠いお店にはほぼ一日ががりなどという事もありましたが、全く苦ではなく、むしろ何があるんだろうとワクワクしていた記憶があります。そして時計を見る事はもちろんですが、上記のようなそのお店の個性的な店主さんとお話することも楽しみの一つであり、同じ時計で他店より値段が高くても、この店主さんから買いたいと思うような場面も何度かありました。

現在はインターネットも発達し、家に居ながら、または帰宅途中の電車の中で、欲しい時計やそのお店の在庫品が、綺麗な写真/動画ともに見ることが出来ますし、お店のカラーや雰囲気もネットから瞬時に検索できる便利な時代となりました。また各お店のカラー自体も、昔に比べて全体的にスマートになり、人間味のある「店主」と言う語句はあまり耳にする事がなくなったのは一抹の寂しさがあります。

そのうちAI技術が進んで、人ではなく機械が運営するお店から時計を買うなどという時代が来るかも知れませんが、幸い今はまだ人と人とのつながりのある時代です。

昔のような、そのお店にどんなものがあるんだろうというワクワク感はなくなり、話を聞きたい店主さんも少なくなくなりましたが、現在営業されている色々なお店様においても、人であるスタッフと実際話をすれば、実は個性的で人間味のある人だと感じることが出来るんだと思います。

最後に

エバンスにも店長はじめ、副店長、コンシェルジュ、スタッフ数名おりますが、皆「店主」となっても十分通用するような時計好きな人間味あふれるスタッフでございます。出来ましたらご来店頂き、遠方の方でしたらお電話でも構いません、一度皆様とじっくりお話させていただき、皆様に記憶に残るようなひと時をご提供できましたら幸いです。

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