腕時計にムーンフェイズは必要か?実用性とその魅力とは
2020-05-27 11:30
エバンス オンラインショップ担当の大貫です。今回は、時計の文字盤に豊かな表情を加える「ムーンフェイズ」の魅力をご案内したいと思います。
メーカーによってムーンフェイズの表示方法、デザインが異なるのも魅力の一つで、機能的というよりも見ていて癒されるものです。 個人的に最も古典的な印象を与えるのが「ムーンフェイズ」だと思っています。
ムーンフェイズとは
時計における「ムーンフェイズ」とは、文字通り月の満ち欠けを文字盤上に表現する機構のことです。時計に採用された歴史は古く、1790年代のブレゲの懐中時計で、現在と同じ仕組みのムーンフェイズウォッチが製作されていたことは知られていますが、さらに遡ること16世紀に、既にムーンフェイズが組み込まれた置時計が確認されているようです。
ムーンフェイズは太陰暦
現在の暦はご存じのように、太陽暦の一種“グレゴリオ暦”を基にしたカレンダーとなっています。一方、月の満ち欠けを基準とするのは太陰暦。紀元前の古代の暦として使用さてきた歴史があり、「何月」というのは、元々“月”の動きによるものです。太陰暦は、1年が約354日(354.36707日)で、現代の暦に比べ 約11日短くなっています。
現在ではほとんど使用されなくなった太陰暦ですが、 日本では1872年(明治5年)11月9日まで、太陰暦(太陽太陰暦)が使われてきたそうです。 また、潮の満ち引きに大きく関わってきますので、漁業関係では今でも太陰暦を使った干潮・満潮時刻の算出を必要としています。
「ムーンフェイズ」は、月齢ではなく“月相”
『ムーンフェイズ』とは、“月相”を意味します。よくムーンフェイズ=月齢と思われていますが、 『月相』は“月齢によって月の表面の輝く部分が変化する様子”で、簡単に言うと「どのような月の形なのか」ということです。満月や下弦の月、上弦の月などを表します。
新月を“朔”(さく)、満月を“望”(ぼう)ともいい、1朔望月で月の満ち欠けが一巡りします。 正確な月の周期は、 29日12時間44分2.8秒 (29.530589日)となります。
『月齢 (moon age) 』 は、月の周期(約29.53日)で表す齢で、 満月の際の月齢は14.8。 今では少なくなっていますが、下記の画像の様に、ムーンフェイズの窓枠に0~29 1/2と書かれているモデルがあります。これが月齢表示です。
また、紛らわしいワードとして『ムーンフェイス(moon face)』があります。これはムーンフェイズのディスクの月に描かれた顔(フェイス)を指します。 アンティーク好きの方は、“顔付き”を好まれるのではないでしょうか。
ムーンフェイズのシステム
ムーンフェイズ機構の基本的なシステムは、新月から次の新月までを29.5日で表します。月が描かれたムーンフェイズのディスクには、2つの月が描かれ、59日で一巡するのが一般的となっています。
窓の左側から月が上がり、中心に来ると“満月”、その後右側から隠れます。月が全く表示しないときは“新月”となります。
一般的な機械式時計のムーンフェイズ機能では、正確に合わせても、1年で約9時間、3年で約27時間の誤差となり、 2年7ヶ月20日ごとに1日のズレが生じてきます。文字盤にはムーンフェイズ用の小窓が設けられ、小窓の左右に半円形のカーブが付けられ、月の満ち欠けをリアルに表す工夫がされています。
なお、ランゲ&ゾーネやIWCなどの一部のモデルにおいては、約122年で1日の誤差という高精度のムーンフェイズがありますし、 H.モーザーの「エンデバー・パーペチュアルムーン コンセプト アベンチュリン」 では、1027年で1日の誤差。ランゲ&ゾーネの「1815 ムーンフェイズ」では、1058年に1日の誤差といった、超高精度のものも存在します。
ムーンフェイズの実用性
現代において、ムーンフェイズ機能は“実用的ではない”と言えます。満月や新月ならまだしも、小窓に現れる月の誤差を正確に読み取るのは困難ですし、時計を使用する際に、正確な月齢を調べ、調整するのは面倒だと思います。
ムーンフェイズ機構は、満月の表情を文字盤上で、眺めて楽しむことが一般的ではないでしょうか。実用機能というよりは、装飾的な機能と言えます。
ムーンフェイズの合わせ方
メーカーやモデルによって、ムーンフェイズの調整方法は多少異なりますが、ケースサイドにあるプッシュボタンを押して調整する方法と、日付調整と同様ににリューズを回して調整するタイプがオーソドックスです。
なお日付やムーンフェイズを早送りする際は、切り替わる時間帯の前後3~4時間は調整しないように注意。切り替わる時間帯は、歯車が噛み合っている状態です。そこで無理に日付やムーンフェイズを早送りすると、故障する場合がありますので、所有するムーンフェイズの切り替わりのタイミングは覚えておきましょう。
ステップ①
インターネットで月齢表を探し、前回の満月が何時だったかを確認します。googleなどで「月齢カレンダー」と検索するとたくさん出てきます。
例えば、合わせる日が2020年5月27日の場合、 前回の満月が5月7日であることを確認します。
ステップ②
ムーンフェイズを操作し、月を窓の中央にセットします。
ステップ③
前回の満月の日(5月7日)から、合わせるに日の“前日”までの日数を数えます。5月27日に合わせようとしていますので、5月26日までの日数をカウントすると『19日』になります。
ステップ④
前回の満月からの日数分(19回)をプッシュボタンで押してムーンフェイズを進めます。1プッシュで1日分進みます。 日付のカレンダーがある場合は、こちらも前日に合わせておきます。
ステップ⑤
最後に針を早送りして、午前午後を気を付けながら、現在に時間に合わせます。
以上の方法でムーンフェイズは正確に合わせることが出来ます。ちょっと満月を調べるのが面倒ですが、 意外と簡単ですよね。
現在の月相を簡単に調べる方法
実は前回の満月を調べなくとも、簡単に分かるサイトがあります。
パテック フィリップの公式サイトでは、ムーンフェイズ付きモデルのページに設定ガイドがあります。現在の年・月・日を入力すると、現在のムーンフェイズ位置をわかりやすく知らせてくれますので、非常に便利です。一度試してみてください。
機械式時計のムーンフェイズを合わせるのが面倒という方に
機械式時計の場合、ゼンマイの持続時間が短いので、使用していないと止まってしまいます。そのため一度止まった状態から、時刻を合わせるだけならまだしも、ムーンフェイズも合わせるのは、正直とても面倒ですよね。
基本ムーンフェイズは、無理に合わせる必要はないと思います。月の移り変わりを眺める。ただそれだけで良いのではないでしょうか。今が上弦なのか、新月なのかといった情報は、ほとんどの方には必要ないことでしょう。
ムーンフェイズは一種のギミックとして考え、移り行く月のアニメーションを楽しむ感覚でいたほうがいいと思います。
時計にムーンフェイズが必要か?と問われれば、私は『必要』と断言できます。こんなに目立つ、面白いギミックは他にありませんし、トゥールビヨンの様に機能が付加したことで、高額になることもありません。ただ各ブランドにおいてムーンフェイズ機能付きのモデルは生産されていますが、モデル数は少なく、選択肢が少ないのが現状です。
しかしながら、ユーズド品やアンティークモデルでは、個性的なモデルが見つかると思いますので、お気に入りの1本を見つけてみてください。