稀代のロングセラームーブメント、オメガ「Cal.861」のオーバーホール
2020-03-28 11:00
ブログをご覧の皆様、こんにちは。アフターサービス部の竹内です。今回はオメガのスピードマスター・プロフェッショナル『Cal.861』のオーバーホールをご紹介いたします。
オメガの手巻きムーブメント『Cal.861』とは
ご存知の方も多いと思いますが、オメガのスピードマスターといえば、月に行った最初で唯一の時計で有名です。1957年に登場してから、現在でも販売されているロングセラーモデル。今回ご紹介するのは1968年に登場したスピードマスター・プロフェッショナルで、手巻きクロノグラフ『Cal.861』を搭載するRef.145.022です。
50年以上も同じムーブメントを使用しており、マイナーチェンジを行いながら、現在も現役のムーブメントです。作業を行うムーブメントは、1993年頃に製造されたモデルになります。
ムーブメントを分解
それでは、早速オーバーホール(分解掃除)を進めて参ります。
下の画像は、文字盤を外した状態です。画像の下側左に見えるのは、12時間積算計の動きを規制するレバー。仕上げもないので少しすっきりした印象です。時計技術者の中では、こちら側が “裏側” になります。
クロノグラフ機構の見える上の画像が、ムーブメントの “表側” になります。部品が色々有り、よく分からない部分もあるかと思いますが、複雑に絡み合って動いています。
ムーブメントを分解したところです。なかなかのパーツ数だということがわかります。少しパーツを写真に入れるの忘れてしまいました。パーツをひとつひとつ確認して洗浄籠にいれて、超音波洗浄します。
ムーブメント Cal.861の組み立て
香箱の組み立て
まずは、機械式時計の動力「ゼンマイ」が収まる “香箱” を組み立てます。上の画像は、新しいゼンマイを入れて蓋をした所です。左側にあるパーツは、クロノグラフの12時間積算計に直接動力を伝える部品です。
香箱に取り付けました。中心部分のカナは、バネで押えられており、クロノグラフがリセットされた時に回転するようになっています。
輪列の組み立て
組み立てていきましょう。まずは裏廻り、12時間計を組み立てていきます。
裏廻りを組み立て、12時間計の歯車、リセットハンマーをセットします。左側に置いてあるのは、歯車を固定する“受け”になります。
“ 受け”をセットしてネジで固定します。この受けは香箱の下受けにもなります。
輪列を組み立てていきます。まずは香箱から、小秒針が付く4番車まで。香箱の上に見える銀色の歯車は角穴車で、手で巻いた時にこれが回転して香箱の中のゼンマイを巻き上げます。
受けをセットしてガンギ車まで組み立てました。ガンギ車のみ単独の受けになります。リューズを巻いて歯車を回転させて動きを確認します。
クロノグラフ機構に動力を伝える “出車”の取り付けです。4番車の軸に圧入して、クロノグラフ車に動力を伝えるオン・オフのスイッチの役目となるクラッチと高さを合わせて取り付けます。
出車の高さを確認。良い高さで取り付けできました。回転させて水平も確認します。
時計の心臓部と言われる精度を決定するパーツ、“アンクル”や“テンプ”を組んで精度を確認し、調整していきます。この後はクロノグラフ機構を組んでいきます。
クロノグラフ車、中間車、分記録車を組み込みます。クロノグラフ車が1回転する毎に送り爪が中間車の歯を一つ押して、30分計にあたる分記録車を進めます。
スタート・ストップレバー、リセットレバー、作動カム、リセットハンマーといったクロノグラフの動きを制御するパーツを組み込んでいきます。この状態で一度動作確認を行います。
クラッチを組み込んでさらに動作確認を行います。歩度、振り角といった細かい数値も確認していきます。
クラッチの食い合いの確認します。クラッチと出車の食い合いは、クラッチの歯の高さの2/3。クラッチとクロノグラフ車の食い合いは、クラッチの歯の高さの1/3になります。顕微鏡を使って確認し、偏心ネジで調整を行います。
左側にあるレバー類を組み立て、作動確認を行います。問題なければダイアル・針を取り付けます。後もう少しです。
スピードマスターのダイアル・針の取り付け作業
ダイアル・針の取り付けです。しっかりとセンター出しをして針の位置がずれない様に取り付けます。下手に押すと針の塗装がはげてしまうので慎重に作業します。
針の高さも良い感じです。しっかりと平行が取れています。この後クロノグラフのスタート・ストップ・リセットを繰り返し運針、帰零(針が元の位置に戻ること)、針のズレの確認を行います。これで問題無ければムーブメントの組み立ては終了です。この後は、ケースとムーブメントを組み合わせる“ケーシング” に入ります。
刻印部分の“墨入れ”工程
ケーシングの前に研摩から上がってきたケースを組み立てます。上の写真は裏蓋とクラスプですが、長年の使用や洗浄することで、文字の“墨”がなくなってしまいます。
墨入れすることでオリジナルの状態に近づきます。
ケースの組み立て~完成
ケースを組み立てます。風防は圧入式でパッキンはありません。正確な工作精度があるから出来る構造ですね。プッシュボタンはねじ込み式チューブです。
ケースにムーブメントを組み込みます。歩度確認、調整、動作確認をして裏蓋を閉めます。耐磁板もお忘れなく。
最終チェック
日差の確認、振り角、ランニングテスト、持続時間など1週間程度確認しながら見ていきます。問題なくテストを終了したらブレスレットを取り付け最終確認をして完了となります。
オーバーホール完了
長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか? 少しはオーバーホールの作業を体感して頂けたら幸いです。最後まで読んで頂き有難うございました。