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グランドセイコー「雪解け」

2024-07-16 11:00

こんにちは、銀座エバンスの稲田です。
本日はグランドセイコーから「ヘリテージコレクション”雪解け”」のご紹介です。

ヘリテージコレクションとは

ヘリテージコレクションとは、 ”王道”デザインが特徴のコレクションです。ベゼルはつるっとしたポリッシュベゼルのみで、ダイバーズやGMTに採用されている”回転ベゼル”も装飾ベゼルも作っていません。レディースにのみ、ダイヤモンドが入ったベゼルのモデルが存在しますが、ダイヤの粒は大き過ぎず、小さ過ぎない、大変上品で使いやすいデザインとなっています。これは「セイコースタイル」というセイコー独自のデザイン法に基づいたスタイルで、高級時計にふさわしい外観を与えるべく考案された同社独自の手法です。

セイコースタイルを確立したきっかけのモデルは、時計愛好家なら誰もが知っている1967年に登場したグランドセイコーの名機「44GS」です。日本独自の美意識、光と影の織り成す表情、まるで日本刀のようなシャープで鏡面部分の輝きと立体的な造形を楽しむことのできるケースの仕上げは、思わず見惚れてしまう程の美しさです。(下写真:ヘリテージコレクション「9Fクォーツ 44GS現代デザイン」)

今回ご紹介する「SLGH013:雪解け」は、現代版44GSシリーズの中のひとつなのですが、ヘリテージコレクションにはもうひとつ「62GS」があります。1967年にグランドセイコー初の自動巻機械式ムーブメント搭載モデルを発表したのですが、この傑作を現代版に進化させたシリーズが62GSです。日本の春夏秋冬、すなわち季節の移り変わりをコンセプトとし、詳しくお伝えすると四季を6つずつ24つに分け、文字盤でそれぞれの季節を表現するという、日本ならではの美しいコレクションです。(二十四節気…立春・雨水・啓蟄・春分・清明・穀雨・立夏・小満・芒種・夏至・小暑・大暑・立秋・処暑・白露・秋分・寒露・霜降・立冬・小雪・大雪・冬至・小寒・大寒)

62GSはベゼルを廃し、後程詳しくお話するザラツ研磨によって実現した、シャープで多面体を持つ独特のケース形状が特徴のシリーズです。(下写真:ヘリテージコレクション「立夏・薫風」) 同じヘリテージコレクションでも、ケースが違うだけでこんなにも表情が変わるんですね。そして9Sメカニカル、9Rスプリングドライブ、これら四つのコレクションからヘリテージコレクションは構成されています。日本の伝統と匠の技の融合コレクション、それがグランドセイコーのヘリテージコレクションなのです。

セイコースタイルとは

「燦然(さんぜん:きらきらと光り輝く様)と輝く腕時計」を実現させるため、日本特有の美意識を原点として編み出されたセイコー社独自のデザイン文法です。腕時計の面の形状や張りによって輝きに大きな違いが生じていることを発見した服部時計店のデザイナーが、外装工場の職人達と共に試行錯誤を重ね、遂に理想のスタイルが完成したのです。

このスタイルは、日本人が好む”光と影”、”直線と平面”を組み合わせ、光と影の間に生まれる多様な表情を取り入れました。日本の和である”屏風”や”障子”など、日本らしい美しさを腕時計の外観に与えたいという思いで考案されたのが「セイコースタイル」です。

セイコースタイルには三つのデザイン方針があり、一つ目は「平面を主体として、平面と二次曲線からなるデザイン。三次曲線は原則として採り入れない」二つ目は「ケース・ダイヤル・針のすべてにわたって極力平面部の面積を多くする」三つ目は「各面は原則として鏡面とし、その鏡面からは、極力歪みをなくす」この三つの方針に沿って成型されています。

やわらかい三次曲線ではなく、極めてシャープな平面からなる造形、光と影の生み出すコントラストにより表情のある輝きが生まれ、ケースや文字盤・針においても直線が際立つ多面カットを施して鏡面仕上げにすることによって、燦然と輝く腕時計となるのです。

更に詳しくお伝えすると、文字盤上の12時インデックスは、他のインデックスの二倍の幅にしており、12時位置を強調することで時刻を読み取りやすくしています。インデックスだけでなく、時分針にも”多面カット”を施し、それらを更に際立たせて視認性を上げるため、フラットな文字盤を採用しているそうです。(上写真)そしてガラス縁のベゼルとケースに、次のチャプターでお話しする「ザラツ研磨」を施しており、歪みのない平滑な鏡面に磨き上げ、平面と斜面の繋ぎ目の”エッジ”をしっかりと際立たせるというシャープな印象をつくり出しています。また、ベゼルとケース側面に逆斜面を入れることにより、表現のある輝きが生まれ、装着時に薄さを感じられる形状になっています。そしてリューズを半ばケースに埋まるように作ることにより、心地よい装着感を実現しています。

凛とした日本の美学と品格を体現するブランドの真髄、美の極致といえるディテールへのこだわりが凝縮された、グランドセイコーの腕時計を象徴する文法、それが「セイコースタイル」なのです。

ザラツ研磨とは

グランドセイコーのケース成型は、金属を刳り貫く方法または数100tもの力でプレスをして作る方法のどちらかで、金属が時計ケースの形になった後、磨き上げる工程に入るのですが、磨く前の段階「バフ研磨」(綿布やフェルトを用いた磨いて輝かせる研磨方法 ※同社では次に行うザラツ研磨のため、粗くバフ処理を行うそうです)を施して表面の凸凹を平らにします。

その後「ザラツ研磨」を行うのですが、私自身初めて聞く技法で、熟練の職人が手作業で行うこの研磨方法は、”超平滑な面”を作ることを目標としており、研磨紙を貼り付けたアルミの円盤を回転させ、正面に研磨面を押し当てて動かす、この時の押し当てる時の力とスピードが必要不可欠であり最も難しく、卓越した職人技を持つスペシャリストのみが完成させることができるのです。

ちなみに”ザラツ”とは、グランドセイコーのケース製造に特化した林精器という会社が、”GEBR.SALLAZ”(ドイツ語で「ザラツ兄弟社」)という刻印の入った研磨機を導入したことから、その名が付けられました。この研磨機に、側面ではなく正面を使って研磨を行う工程があり、それを日本の研磨職人達が「ザラツ研磨」と呼ぶようになったそうです。
このザラツ研磨により、面と面の境界線を際立たせて”超平面”に仕上げ、更にバフ研磨で”超鏡面”にします。このザラツの工程を欠いてしまうと、表面に微細な歪みが生じてグランドセイコーのヘリテージコレクションケースは完成されないのです。

面と面の境界線である「稜線」を研磨によってくっきり浮かび上がらせる必要のあるセイコースタイルを確立させるには、このザラツ研磨が不可欠です。先にも述べた通り「平らな面にケースを当てて磨いて角を落とさずに表面を整える」言うは易しですが、高速で回転している面に、時計ケースという小さな金属を動かさず正確に押し当てて超平面にする、この作業が実に大変で、熟練の職人の中でも更に優れた技術を持ったスペシャリストでなければ成し得ないということは実物をじっくり見れば一目稜線です。その後、バフ仕上げによりビカビカに磨き上げられたケースは、まるで”日本刀”のように鋭く美しく輝く芸術作品となります。

ザラツ研磨はセイコーだけでなく、他の日本の時計メーカー(ザラツ研磨を施したG-SHOCKもあるんですよ)の高級ラインにも採用されています。いろいろなザラツモデルを探してみるのもおもしろいかもしれませんね。

SLGH013:雪解け

このモデルのテーマは「雪解け」なのですが、これは岩手県雫石町盛岡セイコー工業「雫石高級時計工房」内に2020年に設立された、グランドセイコーの機械式モデルを製造する「グランドセイコースタジオ 雫石」から一望できる”岩手山”から着想を得て生まれた文字盤です。角度によってシルバーや淡いブルーに変わる見事な色合いは、厳しい冬から暖かい春に変わる時の美しい雪解けの様を表現しています。(上写真)

そして、これまでお伝えして来た「セイコースタイル」と「ザラツ研磨」を施した美しいケースとブレスレットには、世界最高レベルの”耐食性”を備えた「エバーブリリアントスチール」を採用しており、まさに匠の技が光る見事な文字盤との完璧な調和が実現した素晴らしい作品です。

キャリバーは2020年に誕生した、10振動でパワーリザーブ80時間という、史上最高の機械式ムーブメント「9SA5」です。10振動とは、時計の心臓部である「テンプ」が一秒間で10回振動(一時間で36000振動)することを表しているのですが、例えば手巻きの懐中時計は18000~21600振動、標準的な機械式時計で28800振動なので、すごく高い振動数(ハイビート)ということが分かります。ハイビートの腕時計は高い精度が保てるのですが、すごく早く動くということは、その分その他の部品への負担が大きく、油の減少も早いため製造が極めて難しいのです。

しかし、同社は「デュアルインパルス脱進機」という機構を新たに開発し、更に「ツインバレル」を組み込むことにより素晴らしいキャリバー製作を実現させました。ツインバレルとは、香箱(ゼンマイが収められている箱)をふたつ組み合わせることで80時間という長時間のパワーリザーブが得られます。脱進機とは、簡単に言うと時計の速度を一定に保つための装置のことで、ゼンマイがほどける力によって様々な歯車が動くのですが、テンプ・ガンギ・アンクルから成る脱進機の「ガンギ」と「アンクル」をテンプの上に重ねるような構成にし、ガンギから直接テンプに力を伝えることを可能にしました。(下写真)

そして、テンワには独自の4つの小さなネジを付けた緩急針のない「フリースプラング方式」を採用することで、ヒゲゼンマイの耐久性が向上し、これらすべてが組み合わさって完璧に機能することにより、高い精度を誇る史上最高のキャリバーとなるのです。日本が誇る、グランドセイコーの熟練の職人たちの技術の結晶、それが「9SA5」なのです。

美しい文字盤と秀逸なキャリバー、そして匠の技が光るザラツ研磨を施した外装を纏った「SLGH:雪解け」。是非、一度お手に取ってご覧になっていただきたい逸品です。

おわりに

いかがでしたでしょうか。昨年、グランドセイコー「御神渡り」というブログ記事を書いたのですが、今回また違った角度でグランドセイコーを語ることができました。

この記事を読んでグランドセイコーのことを少しでも知ってもらえると嬉しいです。みなさまのご来店、心よりお待ち申し上げております。

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