IWC「ビックパイロットウォッチ」
2024-09-24 11:00
こんにちは、銀座エバンスの稲田です。
本日はIWCから「ビックパイロット パーペチュアルカレンダー”プティ・プランス”」のご紹介です。
ビックパイロットウォッチとは
1940年、三針のシンプルで直径55mmもの「ビック・パイロット・ウォッチ52T.S.C.」が発表されました。ドイツ空軍から誤読不可能な程大きなパイロットウォッチを作って欲しいという依頼を受けて製作された、IWC史上最大の腕時計です。
ハック機能付きの正確な時刻を瞬時に読み取ることができる ”空のマリンクロノメーター”を目指した、まるで懐中時計のような巨大腕時計の誕生でした。(下写真)
2000年にリシュモングループ傘下となったIWCは、SIHHで復刻版ビック・パイロット・ウォッチ(Ref.IW5002)を発表しました。SIHHとは1991年にカルティエが、ピアジェ、ジェラルド・ジェンタなどと共に始めた高級時計の特別見本市のことです。当時、すでに”バーゼルワールド”という世界最大級の見本市が存在しており、バーゼルとSIHHとは全く異なる趣向でした。
現在、この二つの見本市は終了しており、今は”W&WG ウォッチズ&ワンダーズジュネーブ”が唯一の世界最大時計見本市となり、リシュモンをはじめ、ロレックス、パテックフィリップ、そして昨年夏にはエルメス、シャネル、そしてLVMHが参加。W&WGは正に時計業界を代表する世界最大の時計フェアです。
IW5002は初代の55mmからサイズダウンはしましたが、46.2mmと同社で最も大きく、このモデルから派生したのが今回ご紹介するビックパイロットパーペチュアルカレンダー・プティプランスです。現行は黒の他、青、緑、革ベルトとブレスレットモデルがあり、素材はステンレス・チタン・セラミック、トップガンやAMG、機能はパーペチュアルカレンダーの他、トゥールビヨン、過去にはワンプッシュクロノグラフまで幅広く展開しています。
ビックパイロットウォッチとは、初代のオリジナルを踏襲し、パイロットウォッチに対する情熱を見事に表現したブランドを象徴するIWCに欠かせない腕時計なのです。
プティ・プランスとは
世界中で最も有名なお話のひとつである「星の王子様」の主人公が、とても不思議な雰囲気で、金色の髪の可愛らしい男の子と出会うのですが、この男の子は一人で小さな星に住んでいる王子様でした。プティ・プランスとは”小さな王子様”という意味です。
私も個人的に大好きなお話で、子供の頃から何度も読んでいるのですが、読む度に違う発見や感じ方、学びがあり、新鮮で心温まる私の中でとても大切な本なんです。
中でも特に私の好きなのは、王子様とキツネのやりとりすべてで、王子様とキツネが最後にお別れをする時にキツネが言った「ものごとは心で見なきゃ、ちゃんと見えないんだよ。いちばん大切なことは目には見えないんだ」この言葉が特に好きです。何歳になっても、何度読んでも、読む度にいつもこのことを忘れている自分に気付き、すごく深いなあと考えさせられます。平穏な日々を送っている時、何か壁にぶつかった時、その時々で感じ方が変わり、大切なことを教えてくれる、私の人生で一番好きな小説です。
IWCのプティ・プランスシリーズは、星の王子様の作者である”アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ”にオマージュを捧げるモデルとして毎年製作しているコレクションです。フランスが誇る作家であり、パイロットである氏の子孫により2009年に創設された「サン=テグジュペリ財団」は、恵まれない子供たちや青少年の支援に取り組んでいます。IWCはパートナーとして毎年、世界で一本の特別な”プティ・プランスモデル”を作り、オークションで得た収益を学習や教育を目的とする様々なプロジェクトに寄付しています。
2013年から始まったこのコレクションは、もちろんパイロットウォッチが選ばれてスペシャルエディションモデルも含め、数種類のプティ・プランスオマージュモデルが発表されています。次のチャプターではこれまでエバンスに入荷したことのあるプティ・プランスをご紹介致します。
プティ・プランスコレクション
2016年発表のパイロットウォッチクロノグラフ”プティ・プランス”です。レギュラーモデルはブラックですが、星の王子様モデルの特徴であるミッドナイトブルー文字盤が特別感を醸し出しています。裏蓋には我々のよく知る王子様(主人公が一番最初に描いた王子様の絵)がエングレービングされています。
革ベルトモデルもあり、デフォルトは分厚めの茶色カーフで、パイロットウォッチらしいタフな印象の一本です。 同じ年に三針モデルも発表されています。
2018年発表のマーク18”プティ・プランス”です。プティ・プランスの特徴である深みのある青文字盤は、星の王子様の住んでいる星の夜空の色を表現しているのでしょうか。
とてもシンプルな三針、日付付きで普段使いにピッタリです。こちらも革ベルトモデルがあり、先程ご紹介したパイロットクロノグラフと同じ仕様の分厚め茶カーフです。裏蓋も同じ王子様のエングレービングです。2016年が初出で、このモデルとの違いはキャリバーです。
ちなみに、こちらのモデルは初代プティ・プランスです。(上写真)エバンスには一度も入荷をしたことはないのですが、こちらは世界限定1000本で、秒針に星のマークが付いていて、レギュラーモデルとは一味違う書体で特別感を醸し出しています。なにより火山を見守っている王子様のエングレービングがマーク18やパイロットクロノグラフとは異なり、本の表紙の王子様なんです。海外では完品で100万円近くまでプレミアが付いているレアモデルです。
ビックパイロットウォッチ”プティ・プランス”とは
2014年、ビックパイロット”プティ・プランス”が発表されました。(上写真)世界限定1000本のこのモデルは、先程ご紹介した初代マーク18”プティ・プランス”と同じ書体の文字盤が採用され「7DAYS」が搭載されています。気になる裏蓋のエングレービングには、火山を掃除する王子様が選ばれました。
2015年にはこの書体のレッドゴールドモデルが世界限定250本で登場。翌年2016年にはレギュラーモデルとして、いつもの書体で発表されました。2021年には、モノプッシャークロノグラフ(上下のプッシュボタンがなく、リューズひとつで操作できる画期的な仕組みのクロノグラフ)が世界限定500本で登場。このモデルにもやはり大きなフォントの数字が選ばれ、星の王子様のエングレービングではなく、裏蓋が大きく開いた仕様となっています。
ちなみに、上写真の書体は限定モデルに採用されていることが多く(今回ご紹介するモデルもそうです)、星の王子様の作者である「アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ」モデルの限定版もこの書体です。
2012年から作られ始めたこのシリーズは、彼の愛称である”サンテックス”と愛好家たちに親しまれ、身に着けていた飛行服の色であるセピアカラー(茶色)文字盤が最大の特徴です。(下写真)IWC社はパイロットウォッチの中でも一線を画するモデルとして、サンテックスとプティ・プランスを製作しているのです。
2021年には、ビックパイロットの43mmモデルを発表し、多くのIWC愛好家を魅了し続けています。レギュラーモデルが46.2mmと非常に大きなサイズですので、三ミリの違いはとても大きく、すごく使いやすいと年齢問わず素晴らしい反響を呼んでいるそうです。
一目でそれと分かる大きな円錐型リューズ、大きな数字に太い針とずば抜けた視認性のよさ、1940年代の飛行監視要員時計からインスピレーションを得たデザインは、飛行機のコックピットの計器を彷彿とさせます。これらのディテールはすべて初代から変わらないスタイルで、43mmが登場したことでますます洗練され、秀逸さに磨きがかかっています。
最新キャリバーは7日巻きで52111キャリバー、耐磁性軟鉄製インナーケース、43mmは82100キャリバーでパワーリザーブ60時間、どちらもペラトン自動巻き機構です。ペラトン自動巻き機構とは、「アルバート・ペラトン」が開発した”つめレバー式巻上機構”を組み込んだムーブメントで、最新のキャリバーではセラミックを導入して摩耗や磁気などに強く、どんどん進化しています。
下写真を見ていただきたいのですが、今回ご紹介するビックパイロット”プティ・プランス”は特別仕様なので、ローターの真ん中に星の王子様がいて、表紙の王子様が選ばれました。そして文字盤側もよく見てみると、ムーンフェイズの月の上に王子様が立っているではありませんか!(上写真)なんてマニア心をくすぐる粋な計らいなんでしょう。
今年2024年発表のIWC社初のビックパイロットウォッチトゥールビヨン”プティ・プランス”なんて、ローター自体が大きな王子様の星になっていて、その上に王子様が立っているというマニア垂涎ものなんです…!こちらは写真でしか見たことがないですが、初めて見た時は感動しました。みなさんにもIWCのいろいろな星の王子様を探してみて欲しいです。
IWCの永久カレンダーとは
1980年代初頭、IWC社の時計師のリーダー「クルト・クラウス」がグレゴリオ暦(1582年、ローマ教皇”グレゴリウス13世”が制定した現在の太陽暦のこと)を腕時計に組み込む研究を開始、遂に1985年「ダ・ヴィンチ・パーペチュアルカレンダー」に搭載することに成功しました。
この精巧なカレンダーには、日付・月・曜日・ムーンフェイズの他、4ケタの西暦表示窓まであり、特筆したいのはこれらの複雑な機構の部品数がわずか81個(総部品数386個)ということです。というのも、例えばパテックRef.5236永久カレンダーの部品数は503個なんですよ?この画期的な永久カレンダーは、各月の日付の自動送りだけでなく、うるう年には2月末日に一日追加をし、ムーンフェイズは577年で一日という驚異的な精度を誇る、そしてなんと、ケースサイドにプッシュボタンなどなく、リューズひとつで操作ができるという史上最高傑作なのです。
かつて”IWCの頭脳”とまで呼ばれた天才時計師クルト・クラウスは、1999年の引退後も顧問としてアドバイスやサポートを行ってらっしゃいましたが、現在は開発からも離れておられます。生ける伝説、時計師でありながら「名設計士」である同氏は、先述した「アルバート・ペラトン」を師とし、多くを学んだのち独自の複雑機構の設計に携わり、”大設計士”と呼ばれるほどになりました。彼の顔が裏蓋に大きく刻印されたトノー型の限定「ダ・ヴィンチ」はあまりにも有名ですし、まさかのLINEスタンプまであるんですよ 笑
コンピューターを一切使わず、しかもたった一人で、手作業で幾度となく様々な計算を重ね、手で図面を引き、プロトタイプすらも彼一人で完成させたという、IWCの永久カレンダー。クルト・クラウスという偉人がいなければ、今日のIWCはないとまで言われています。この記事を読んで、実際に時計を見て、感慨深い気持ちになってもらえたら嬉しいです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。長くなりましたが、私の個人的な好みの要素がぎゅっと詰まった腕時計ということが、記事を読んできっと伝わりましたよね。
今回ご紹介したモデルは、世界限定270本、日本国内ではここエバンスにしかない激レアモデルです。
気になられた方は是非、お手に取って一度この素晴らしい作品をご覧になって頂きたいです。
みなさまのご来店、心よりお待ち申し上げております。