こんにちは。エバンスの大貫です。
皆さんは「金無垢時計」と聞いてどんな印象をもたれますか? ステータス、ゴージャス、派手、憧れ、成金?印象は様々ですが、ひと昔に比べ、悪い方の印象は少なくなってきたように思います。
人類と金の関係は、約6000年前から始まり、装飾品や工芸品、貨幣などに使用され、不変の材質として太古の昔から価値が認識されています。
腕時計で“金無垢”といえば以前はイエローゴールドで、金ピカに光るイメージだったと思いますが、カラーゴールドや、素材の組み合わせ、仕上げの技術などにより、現在は人気の素材となっています。また、金の価格は年々上昇し、製品としても非常に高額となっていますので、資産としての一面もあります。
アメリカ地質調査所の報告書「Mineral Commodity Summaries 2019」(外部サイト:PDF)によれば、2018年時点の金の埋蔵量は約54000トン。量の想像が難しいとおもいますが、体積に換算すると約279万リットルで、オリンピック公式競技用プール(250万リットル)の1杯分強しかありません。
レポートによると、2018年の世界全体の金産出量は3260トン。このペースでは2030年代半ばには金の埋蔵量が枯渇すると予想されます。もちろん新たな金脈(海底など)の発見や、リサイクルなどによって、金がなくなることはありませんが、全体の総量が大幅に増えることは考えられませんので、今後も金価格は上昇していくと思われます。
ゴールド素材の特徴
金は空気中では錆びません。「錆びない」という性質は、腕時計にとって大変重要なことです。経年変化により、多少の変色はありますが、磨くことで元に戻ります。ゴールドは、他の金属と混ざりやすいという特性がありますので、様々な素材と掛け合わせることができます。
そして、どのくらいの割合で金を含んでいるかという「金の純度」をカラットという単位で表しています。現在の時計産業では18K(18金)がほとんどですが、アンティークモデルなどでは、14K、10K、9Kなどが存在します。
ゴールド素材のデメリットとしては、合金にして硬度を上げても他の素材に比べ非常に柔らかく、 水銀に触れると変質するため注意が必要です。また貴金属の特性上、非常に高価となります。
時計素材としてのゴールド
腕元を華やかに彩るゴールド素材の腕時計。ステータス性は元より、手にした時の重量感が特別な印象を与えてくれます。
時計の素材としては、純金(24金)ではなく、金の含有量が75%の「18金(18K)」が一般的です。金の耐食性を損なわない程度の混ぜ物を行い合金化することで、価格を抑える以上に機能的な理由があります。純金の状態では非常に柔らかく、製品としては難しいため、金の純度を75%に抑え、残り25%の混ぜもを添加することで、時計としての硬度を維持しています。
合金化する際に、異なる元素の配合によって、ゴールドのカラーが異なる点も特徴です。時計メーカーでは、主にイエローゴールド、ホワイトゴールド、ピンクゴールド を中心に使用されています。
硬さの基準として“ビッカース硬さ(HV)”というものがあり、数値が大きいほど硬くなります。純金ではおよそ25~50HV。18金では、概ね【イエローゴールド < ホワイトゴールド < ピンクゴールド】の順となり、ピンク(ローズ)ゴールドが最も硬い素材となります。
なお、ハイクラスのブランドでは、比重の重さを利用して、自動巻のローターに使用するブランドもあります。その際は24金、22金の状態で使用されています。
ダイヤモンドのカラットと、ゴールドのカラットの違い
金の純度は、カラットで表します。 24K や 18K といったように「K」はカラットを意味します。同じように、ダイヤモンドの質量もカラットで表しますが、金の純度とは意味が異なってきます。宝石の場合のカラット(Carat)は、学術用語でカロブ樹、〝いなご豆の実〟を意味するギリシャ語 「KERATION(ケラシオン)」に由来すると言われています。昔は宝石を穀物で量っていたことの名残りとなっています。
一方、金のカラット(Karat)という言葉は、もともと24進法が主流だった時代のイギリスで使用されていた重さの単位(金衡単位)。1トロイオンス=24カラットで計算していたことで、金の含有率を24分率で表しています。金の純度100%の場合は24K、純度75%で18Kとなります。
主な種類と成分
イエローゴールド(YG)
金75% + 銀10~20% + 銅5~15%( 硬度 :120~150HV前後 )
いわゆる純金のような色合いで、華やかな印象のイエローゴールド。配合する銀や銅の比率によって、色合いが異なってきます。
ホワイトゴールド(WG)
金75% + 銀、亜鉛、パラジウム、銅、ニッケルなど25%( 硬度:130~160 HV 前後 )
プラチナの代用品として開発されたシルバー色のゴールド。パラジウムによって白(シルバー)っぽく変色します。もともとの素材は純金ですので、比率や、配合する成分にもよりますが、色味が若干黄味がかったように見えるため、ほとんどのホワイトゴールド製品は、ロジウムメッキが施されています。
ちなみにロレックスのホワイトゴールドにはメッキ加工がされていません。配合や製造技術により美しいホワイトゴールドを作ることができますが、非常に高い技術力が必要です。
ピンクゴールド (PG)、ローズゴールド (RG)
金75% + 銀約5% + 銅約20%( 硬度:150~170 HV前後)
イエローゴールドよりも銅の比率が多いため、赤い色合い(銅色=ピンク色)となります。最近はイエローゴールドよりもピンクゴールド系のカラーが人気。
配合する素材の特性上、ゴールドの中では最も硬い材質となります。ピンクゴールドとローズゴールドの違いは、メーカーによっての呼び名の違い程度で、同じ意味となります。
レッドゴールド
金75% + 銅25%
ピンクゴールドよりも銅割合が増えるので、ピンクゴールドよりも赤い色合いが強まります。
グレーゴールド
金75% + 銀 25%
アンティークジュエリーなどで古くから使用されている素材。ホワイトゴールドの銀の比率を増やすことでグレーがかったホワイトゴールドとなります。時計の素材としては、あまり使用されませんが、一部ピエール・クンツで使用されています。
シャンパンゴールド
金75% + 銀 、亜鉛、パラジウムなど25%
金以外の25%を白色金属で構成され、シャンパンのような淡く、控えめな金色。アクセサリーに使用されていますが、以前はフランクミュラーの一部モデルで使われていました。
オレンジゴールド
金91.66% + 銅8.34%
22金に銅を加え、オレンジ色を表現したゴールド。後述するオメガ開発のオレンジゴールドとは異なり、アクセサリーでの利用が中心
ブルーゴールド
金75% + 鉄25%
名前の通り青みがかったゴールド。腕時計にはあまり使用されず、アクセサリーでの利用が中心。
パープルゴールド
金75% + アルミ25%
腕時計にはあまり使用されず、アクセサリーでの利用が中心
プラチナとホワイトゴールドの違い
希少性の高いプラチナの代替品として作り出されたのがホワイトゴールド。1910年代の第一次世界大戦やロシア革命の際、プラチナの供給が減少した際のに開発されたので、比較的に歴史の浅い素材です。現在はイエローゴールドよりもシェアが高い材質となっています。
プラチナの特徴
プラチナは貴金属の中で耐蝕性が最も高い素材。酸に強く、王水以外では溶けない素材です。変色や変質せず、耐久性に優れ、アレルギー発生率も非常に低い安定した材質なので、時計では最上モデルや限定モデルなど、特別感のある仕上げになっています。また、永遠に変わらない材質ということもあり、装飾品ではマリッジリングとして使用されます。
プラチナの価値
ゴールドと異なり、含有量の表示は1000分率で表し、純プラチナではプラチナ1000。95%ではプラチナ950となります。産出量が非常に少なく、希少な金属となりますが、意外にもにも素材自体の価格は金よりも低いことはあまり知られていません。
純金 | 5,682円/g(2019年8月28日現在の相場) |
純プラチナ | 3,299円/g (2019年8月28日現在の相場) |
一方で、プラチナ製の時計は、ゴールド素材のものよりも高額です。理由としては加工性の難しさにあります。硬度はゴールドとあまり変わりませんが、高密度で粘り強く、加工コストが掛かるため高額となります。
ブランド独自のゴールド素材
現在、時計ブランドとして、独自のゴールド素材を精製するブランドがあります。特にピンクゴールド系の発展が急速に進化しており、自社開発が行われています。特色のある素材をいくつかご紹介したいと思います。
ロレックス 【エバーローズゴールド】
2005年から採用している独自素材。従来のローズゴールドにプラチナを添加することで、変色がしにくいローズゴールドになっています。ローズゴールドに添加される銅は、酸化により変色がしやすい素材のため、ピンクゴールドやローズゴールド、レッドゴールドなどは、長く使用していると変色(イエローゴールドのようになる)してしまう弱点がありました。
素材の名称で、「オイスタースチール」、「ロレゾール」といったものもありますが、オイスタースチールはオーステナイト系904Lスチールを使用したもの、ロレゾールはいわゆるゴールドとステンレスのコンビネーションを意味する造語となっています。
オメガ 【セドナゴールド】
75%のゴールドに、銅、パラジウムを混ぜたオメガ独自の合金。長期間、色が褪せず、ローズゴールドよりも赤みを帯びたカラー特徴です。名前は、太陽系で最も赤いと言われている小惑星「セドナ」に由来。上記のロレックスとほぼ同じ特徴を持ちます。
オメガ 【ムーンシャインゴールド】
イエローゴールドにパラジウムを添加した2019年発表の新合金。一般的なイエローゴールドより淡い色合いで、経年変化による退色に強い特徴をもっています。
http:// https://www.omegawatches.jp/ja/watches/speedmaster/moonwatch/apollo-11-50-th-anniversary-moonshine/product
出典:オメガ公式サイト
オメガ 【オレンジゴールド】
22金のオレンジゴールと異なり、オメガが独自に開発した18金ゴールド。銀と銅に加え、プラチナを添加し、オレンジカラーを表現しています。ロレックスのエバーローズゴールドと同じような特徴。
http:// https://www.omegawatches.jp/ja/watches/speedmaster/moonwatch/apollo-11-50-th-anniversary-moonshine/product
出典:オメガ公式サイト
ウブロ 【キングゴールド】
ウブロ独自の18Kゴールド。レッドゴールドよりもさらに赤い色合いの「キングゴールド」。ロレックスと同様にプラチナを添加することで、酸化を抑え、安定した色合いとなります。
ウブロ 【マジックゴールド】
2011年に発表したウブロ独自の18Kゴールド。セラミックとリキッドゴールドを融合した世界初の傷つかないゴールドとなっています。マットな色調のゴールドで、硬度はなんと1000HV。ステンレスの硬度が約200HVですので、ステンレスの5倍の硬度。他にはない唯一無二のゴールド素材です。
ランゲ&ゾーネ 【ハニーゴールド】
2010年にランゲが開発した独自のゴールド素材。亜鉛やシリシウムを添加し熱処理し、名前通り蜂蜜のような淡い色合いで、一般的な18金に比べ、約2倍の硬度(300~320HV)を実現した傷がつきにくいゴールドとなっています。
https://www.alange-soehne.com/ja/timepieces/honey-gold
出典:ランゲ&ゾーネ公式サイト
まとめ
近年はブランドの独自素材の開発が進んでいます。ケース製造のサプライヤーに依頼しているブランドもあると思いますが、そのほとんどは自社内(自社グループ内)での製造です。
製造できる大型の設備が整っているブランドは限られているものの、今後もゴールドに限らず、新たな素材開発競争は激化していくと予想されます。