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フィフティ ファゾムス③

2024-06-11 11:00

こんにちは、銀座エバンスの稲田です。
本日はブランパンから、第一弾・第二弾と続いて「フィフティ ファゾムス第三弾(最終章)」のお話です。

フィフティ ファゾムス復活

ジャン-ジャック・フィスターがCEOを退いた1980年以降、フィフティ ファゾムスは一度市場から姿を消しました。この頃ブランパン社は世の中の風潮もあって、ドレスウォッチやコンプリケーションに注力していたのです。”薄型ドレスウォッチムーンフェイズ”が同社のシンボルだった時代です。(下写真)

ちなみに、フィスターがCEOに就任したのが1950年なのですが、1961年にはSSIH(オメガ・ティソ・レマニアを保有していたスウォッチグループの前身)と合併、フィスター退任後、1982年にジャック・ピゲがブランパンを買収、1983年にジャン-クロード・ビバーを副会長として迎え入れます。この頃のブランパンは「フレデリック・ピゲ」ムーブメントを製造するメゾンでした。1992年に、ジャック・ピゲが後のスウォッチグループとなるSMHにブランパンとフレデリック・ピゲを売却しましたが、2010年にはブランパンと完全統合され、現在フレデリック・ピゲはブランパン専属ムーブメントメーカーなんですよ。

そして次にCEOの座に就いたジャン-クロード・ビバーが1997年に「トリロジーコレクション」(陸海空をテーマとした三部作。クロノグラフ・三針・GMTの三型で、三針モデルがフィフティ ファゾムス)としてフィフティ ファゾムス復活に至りましたが、オリジナルとはあまり似ていなくて、ロレックスのヨットマスター(立体的なベゼル)とエクスプローラーⅠ(12・3・6・9の数字)を組み合わせたようなデザインのモデルでした。

ビバー氏が退いた2002年、現在のCEOであるマーク・A・ハイエックが本格的にブランパンを象徴するモデルとしてフィフティ ファゾムスを基幹コレクションとし、1953年のオリジナルを忠実に再現した限定モデルを作りました。ハイエック氏がなによりも早く復活させたかったのが、フィフティ ファゾムスだったそうです。このモデルが大成功を収め、オリジナルは41mmでしたが、2007年に45mmへとサイズアップした「フィフティ ファゾムス オートマティック」を世界限定150本のアニバーサーリーエディションとして発表、ベゼルにドーム型サファイアクリスタルを採用した最初のモデル、本当のフィフティ ファゾムス復活モデルとなったのです。

マーク・A・ハイエックとは

スウォッチグループ創業者のニコラス・G・ハイエックの孫であり、現在ブランパン、ブレゲ、ジャケドローを統括しているCEOです。
ちなみに創業者であるニコラス・G・ハイエックとは、豪快でパワフルでカリスマ性を備えた才能とユーモア溢れる人物で、彼のことを語るにはスウォッチグループの歴史を少し深堀りする必要があります。

まず、スイスの時計産業のお話からになりますが、1926年、みなさんよくご存じの「ETA(エタ)」を中心とした「エボーシュSA」が設立され、1930年には先述したオメガが主力の「SSIH」、1931年にはロンジンが主力の「ASUAG」を発足。やがてクォーツショックが起こり、1983年にこの二社(SSIHとASUAG)が合併、この年にエボーシュSAより安価なクォーツ時計「スウォッチ」が発売されます。そして1986年、この三社を合併した「SMH」グループが結成され、このグループのCEOにニコラス・G・ハイエックが就任したのです。

彼はこの上なくスウォッチを愛し、時計だけでなくペンや傘、Tシャツ、ウェストポーチなど、あらゆる日用品にスウォッチの名を入れたり、スウォッチ・テレコムという会社を立ち上げてオールスケルトンの電話機「スウォッチ・フォン」を作ったり、ドイツのダイムラー・ベンツ社と共同でまさかの「スウォッチ・モービル」という車(現在の「スマート・カー」のプロトタイプ!)まで作って、世界中に「スウォッチ」を宣伝することに成功したのです。そして1998年、ついに、 「SMHグループ」→「スウォッチグループ」へと改名を実現させ、今やスウォッチグループの名を知らない人はいないほどになりました。

ホディンキーより:スウォッチ1983年の広告

2010年に死去された後、息子であるニック・ハイエックJr.すなわちマーク・A・ハイエック氏のお父さんが現在のスウォッチグループCEOとなりました。そして冒頭でお伝えした通りマーク・A・ハイエックは今回ずっとお話してきたブランパンのCEOであり、熱心なダイバーであるため、昨年2023年にフィフティファゾムスが生誕70周年を迎えた時、物凄く注力し限定モデルはすぐに完売。私のブログ記事の第一弾「フィフティ ファゾムス①」でご紹介した「バイオセラミック スキューバ フィフティ ファゾムス」、まさかのスウォッチとブランパンのコラボを発表したお話を覚えていますか?この激レアコラボモデルは、創始者である彼のおじいさん「ニコラス・G・ハイエック」通称”ミスター・スウォッチ”を敬愛しているからこそ、生まれた時計だったんですね。

改めてフィフティ ファゾムスとは

今から約20年前の2003年。現CEOマーク・A・ハイエックは、ブランパンの保管庫で眠っていた「フィフティ ファゾムス」を発見したそうです。一目見て、たちまち魅了された彼は、なんとしてももう一度、世界にフィフティ ファゾムスの素晴らしさを思い出して欲しい!という強い願いから、まずは限定たったの50本という各地域別に3シリーズの限定アニバーサリーエディションを発表しました。

そして忘れてはならないのが、フィフティ ファゾムスは男性のためだけのモデルではなく、女性ダイバーのための小さなフィフティ ファゾムス「バチスカーフ」を作っているということです。レディースモデルは38mmで、ライトブルーやライトグリーンなどカラフルなファブリックNATOベルトや、文字盤・ベゼル共に真っ白で秒針の先端が♡(ハート)になっているバレンタイン限定などがあり、パートナーとペアで楽しむこともできます。

ちなみにこのバチスカーフは、1956年(初代フィフティ ファゾムスが出たのが1953年なので、三年後ですね)に発表されており、性の多様性が重要視されている現在において、バチスカーフの製作を考えた当時のCEOジャン-ジャック・フィスターはまさに時代の先駆者ですよね。そして、このバチスカーフをも更にパワーアップして復活させた現CEOマーク・A・ハイエックという人物は、伝統を守り大切にする、さすがブランパンという世界最古のブランドのCEOだと益々敬服の念が高まりました。

今回ご紹介する「フィフティ ファゾムス フライバック クロノ コンプリートカレンダー」は、月・日付・曜日・ムーンフェイズ(月齢カレンダー)というすべてを備えたコンプリートカレンダーで、クロノグラフ機能に更にフライバック(リセットボタンを一度押すだけで、針が瞬時にゼロに戻り再スタートが可能な非常に便利な機能)まで搭載した複雑時計です。カレンダーを操作するには通常、ケースに数ヶ所小さなボタンが付いていて、押すと次に送ることができる仕組みのものが多いのですが、このモデルは「アンダーラグコレクター」というブランパンが2004年に特許を取得した世界初のラグ裏プッシュボタンで、専用工具不要で押すだけで調整ができるという画期的な発明のボタン搭載モデルです。(下写真)

45mmと少し大きめサイズではありますが、月に描かれたなんとも愛らしい顔と、ぷっくりしたサファイアクリスタルベゼル、スケルトンになっている裏蓋から覗く大きなローターはオウムガイ(生きた化石とも呼ばれ、オウムのくちばしに似ていることからこの名が付いた大きな貝)の形になっていて、本当にかわいいモデルなんです。男性だけでなく、女性にも着けて欲しい一本ですね。(下写真)

フィフティ ファゾムスとは、伝説的なオリジナルモデルも存在するダイバーズウォッチの原点であり、伝統と革新の融合したまさにブランパンという最古のブランドを体現したアイコンなのです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。ついに最終章を迎えた今回の記事、実はまだまだ語り続けたいのですが、さすがに飽きてしまわれるのは嫌なので、完結編と致しました。

フィフティ ファゾムスは、ロレックスや他のブランドのように、ヴィンテージモデルに明確なヒエラルキーがなく(トルネク-レイヴィルは除く)、その価値や存在に気付き始めたコレクター達が少しずつ増えています。現に今回ご紹介したモデルは現行ではありますが、定価は400万円近くの値付けがされています。中古市場価格が上がる前に是非、手に入れて頂きたいです。

これまでの記事をご覧になって気になられた方は、私までご連絡下さい。一度お手に取って、腕に乗せてみて、良さを実感していただきたいです。
みなさまのご来店、心よりお待ち申し上げております。

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