ユリスナルダン「フリークX」
2024-01-23 11:00
こんにちは、銀座エバンスの稲田です。
本日はユリスナルダンから「フリークX」のご紹介です。
フリークとは
「文字盤も針もリューズもありません」
人類の”時計”というものに対する概念を完全に覆す、こんなキャッチフレーズを見た人は誰しも、思わずえっ!?となりますよね。2001年、初代フリークが発表された時、時計製造の常識を打ち破った型破りな腕時計は、時計業界はもちろんのこと、世界各国の時計愛好家達を驚愕させました。(下写真)
フリークとは、「酔狂・一風変わった・熱狂的愛好家」などの意味を持ちますが、当時のCEOである「ロルフ・W・シュナイダー氏」はこの型破りなデザインの腕時計に相応しい名はこれしかない!とすぐに「フリーク」と名付けた逸話があるそうです。
このフリークなデザインをよく見てみると、時計の心臓部分である「テンプ」から見て順番に4つの歯車がきれいに並んでおり、一番上の歯車には大きな三角の部品が取り付けられていて、テンプとすぐその上二段目の歯車横に大きな矢印型の部品が取り付けられています。
この三角が「分」を示し、矢印が「時」を示すという他に類を見ない前衛的なデザインの機構は、「オービタル・フライング・カルーセル」と名付けられ、60分で一回転する仕組みというわけなんです。
そして特筆すべきは「シリコン」を採用した脱進機を搭載した史上初の機械式時計であることです。今でこそ、各ブランドが普通にムーブメントに取り入れているシリコン(ステンレススティールよりも硬くて弾性に富んでおり、耐衝撃性・耐磁性にも優れた秀逸な素材)という素材を、ユリスナルダン社はいち早く発見し、腕時計の製作を実現させました。シリコン時代の幕開けです。2018年の私のブログ記事「海の護り人 ”ユリス・ナルダン”(1)成功への軌跡編」でもお伝えしているのですが、同社はここでも時代の先駆者となったのですね。
「フリーク」とは、”時刻を表現する”というそれまで誰も思いつかなかった発想で、一目でユリスナルダンの時計だと分かる、唯一無二のデザインの傑作なのです。
二人の天才
投資家でありクリエーターのユリスナルダン元CEO「ロルフ・W・シュナイダー」と、卓越した技巧を生み出す天才時計師「ルートヴィヒ・エクスリン」。この二人の出会いによって「フリーク」は誕生しました。
シュナイダー氏は、クォーツショックの影響により消滅寸前だったユリスナルダン社を買収して救っただけでなく、先述した「シリコン」を用いた革新的なデザインを考案し、一流の技術者達を集めて最先端の腕時計の開発に成功しました。心臓部であるテン輪、アンクル、ガンギ、ヒゲゼンマイ(脱進機)にシリコンを採用し、そのシリコンにダイヤモンドコーティングした「DIAMonSIL」という独自の素材で、他社へ圧倒的な差をつけます。
もちろん、フリークだけでなく「アストロラビウム・ガリレオガリレイ」をはじめとした「天文時計」と呼ばれる超複雑時計や、熟練の職人による美しい「クロワゾネ」(金の線で絵柄を作り、エナメルを流し込んで焼成させる伝統的な技法)を現代に甦らせました。シュナイダー氏は老舗の時計メーカーを、高級時計製造メーカーへと変身させた凄い人物なのです。
そして、この人物がいなければ再興は有り得なかったとまで言われている天才的な頭脳の持ち主、ルートヴィヒ氏の主な功績は先に少し触れた天文時計です。これは「天文時計三部作」と呼ばれており、1985年のガリレオガリレイに続いて、1988年には「プラネタリウム・コペルニクス」、1992年には「テリリウム・ヨハネスケプラー」を発表しました。 前回の私のブログ記事でご紹介した2003年発表の「ソナタ」も氏の発明ですし、今回ご紹介する「フリーク」もそうであることは言うまでもありませんよね。
二人の偉大な人物がいなければ、今のユリスナルダンはありません。2011年にシュナイダー氏は逝去してしまいましたが、2012年には自社製新キャリバーUN-118を完成させ、先に触れたクロワゾネ文字盤製造会社の「ドンツェ・カドラン社」を傘下に収めます。その後同時に5つの自社製キャリバーを発表するなど、同社は着実に進化しています。
2014年には「ケリング」(グッチ・バレンシアガ・サンローランなどを取り扱う大きなグループ)傘下に入り、同じグループ内の「ジラールペルゴ」と共に時計部門を牽引して来ましたが、2022年にジラールペルゴと共にケリングから離れ、現在は「パトリック・プルニエ」率いるソーウィンドグループに属しています。ユリスナルダンがこれまで紡いできた歴史と伝統をシュナイダー氏が繋ぎ、また後世に繋いで行く。現在ある意味”独立系ブランド”となったユリスナルダンがこれからどんな作品を作ってくれるのかとってもワクワクしますね。
フリークXとは
2019年。初代フリークの発表から20年近く過ぎた頃、満を持して登場した「フリークX」。文字盤と針がないというコンセプトはそのままに、フリーク最大の特徴である「フライング・カルーセル」を搭載し、手巻きだった機構を自動巻きに変更。初代はホワイトゴールド製でずっしりと重量感があるのですが、本作に使われている素材は”カーボン”と”チタン”で、驚くほど軽い着け心地です。というのも、この20年で同社はシリコンの研究を重ね、超軽量のシリコン製テン輪(心臓部の部品)の開発に成功し、軽い素材のニッケル製ローターと合わせて軽量化を図っており、ラグジュアリーモデルからデイリーユースモデルへと変身を遂げたのです。
「フリークX」の”X”とは、”X-factor”(未知の要素)という意味で、前作のデザインや特徴を踏襲しつつ、前人未踏の領域への到達を目標とし、内部の美しさを露わにしたオープンワークデザインによりこの驚異のモデルが”エックスレベル(未知の水準)”のスケルトンタイムピースとなることをコンセプトとしています。前作との違いは、超軽量になったところだけでなく、リューズを取り付けることで利便性の向上も図られています。ケースに採用されているカーボンの模様もひとつとして同じものがなく、持ち主にこの上ない充実感を与えてくれる、まさに世界に一つだけの一本です。
キャリバーは「UN-230」で、テンプ(時計の心臓部)に採用されている「シリシウム」はシリコンのことです。シリシウムは見た目は金属っぽいのですが、金属ではなく半金属であり、一番の秀逸なポイントは”磁気帯びをしない”ということで、その他摩耗に強く、軽いという利点が挙げられます。テンプがシリシウムであることで、磁気による影響を受けにくく、安定した精度が保たれます。2000年初頭から高級時計を製作するメゾンをはじめとし、少しずつシリコンという素材に時計業界が着目しはじめた頃、先に述べたようにユリスナルダン社もシリシウムに焦点を当てて研究を重ね、20年以上の時を経て、素晴らしい部品の作成に成功し、「フリークX」という傑作が誕生したのです。
2022年には「フリークS」、昨年2023年には「フリークONE」と次々に発表、フリークONEは同年のGPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ。その年で最も注目に値する作品を讃え、世界中の時計製造技術を宣伝する目的で2001年からスイスで行われている式典です)でアイコニック部門に選ばれました。この賞は20年以上、時計製造の歴史と時計市場に影響を与え続けた象徴的なモデルにのみ、与えられる栄誉ある賞です。
「フリーク」。現代時計製造において、従来の慣習にとらわれず、究極な自由、美しさや技術などあらゆることを探求し、それらを見事に形にして作り上げた腕時計は、まさに風変り(フリーク)ではありますが、異端児と呼ばれようと堂々とユリスナルダンのアイコンとして君臨しています。一度見たら忘れられない、私を含め、人々を魅了してやまない存在、それがユリスナルダンのフリークなのです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
個人的に一風変わった時計が大好きなので、いつもにも増して熱い記事となりました。
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みなさまのご来店、心よりお待ち申し上げております。