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ボヴェ「ジャンピングアワー」

2023-11-14 11:00

こんにちは、銀座エバンスの稲田です。
本日はボヴェから「ジャンピングアワー」のご紹介です。

ボヴェとは

1822年、スイスのフルリエにてエドワール・ボヴェが創業したのがはじまりです。弟が時計を作り、商才のある兄が経営をする「ボヴェ兄弟社」を1840年に設立しました。ボヴェは中国との繋がりが深く、中国皇帝からの注文により製作したペアの「琺瑯(ほうろう)時計」が1855年、パリで行われた博覧会で金メダルを受賞しました。当時のボヴェは、中国人にとって時計は”ボヴェ一択”だったそうで、貿易通貨としても使われていたそうです。

ボヴェ社はフライバッククロノグラフや、モノスプリットセコンドクロノグラフ、懐中時計を置時計として使用できる「イーゼルウォッチ」の特許を申請、この仕組みは今もなお受け継がれている礎となっています。
しかし20世紀に入り、世界大恐慌(1929年にアメリカで株価が暴落したことから、世界的に不景気になった経済・金融危機のこと)の影響により、ボヴェ社も打撃を受けてしまい、生産が一時途絶えてしまいます。

その後の1990年、ボヴェの全商標と権利をすべて引き継いだ「ボヴェ・フルリエ」が設立され、2001年には新生ボヴェの出資者でもあり、熱心な時計コレクターでもある「パスカル・ラフィ氏」が全権を取得。長らく休眠状態だったボヴェを蘇らせたのは氏の手腕があったからこそであり、現在もボヴェのオーナーとして活躍をされています。2006年には文字盤工房やムーブメント会社を買収し、垂直統合の自社一貫生産「マニュファクチュール」を実現。以降、卓越した技術で独創的なタイムピースを次々と発表しています。2000年にはそれまで年間2600本だった製作本数を800本まで減らし、顧客からのオーダーメイドの受注やクオリティを大切にしています。他社とは一線を画すマイクロメゾン、それがボヴェなのです。

ボヴェコレクション

現在、ボヴェのコレクションは「フルリエ」「ディミエ」「ピニンファリーナ」の三種類で、その中でトゥールビヨンなどのコンプリケーション、ストラップを外すことで懐中時計やテーブルクロックになる仕様の腕時計、裏表に文字盤があるものなど、様々なバリエーションのモデルを製作しています。

ピニンファリーナとは、イタリア最大級のカロッツェリア(自動車製造工房)です。フェラーリ・アルファロメオ・フィアット・プジョー・キャデラック。日本では三菱のパジェロ、ホンダのシティカブリオレ、日産のブルーバードとセドリックなどのデザインを同社が手掛けており、車に詳しくない私でも一度は聞いたことのある有名な会社です。

2021年には、創始者の名を冠した超高性能EV「バッティスタ」を限定150台で発表、なんと、3億円以上の価格が付けられています。そして最新のEV「B95」はわずか10台のみの生産を予定しており(完成は2025年)まさかの7億5600万円スタートだそうです。このピニンファリーナ社とのコラボモデルである「バッティスタトゥールビヨン」は、フライングトゥールビヨンを備えた10日巻きで、バッティスタGTにインスピレーションを受けてデザインされた革新的な腕時計です。他に「オッタンタセイ」があり、これにも高額な3000~4000万円程の値が付けられています。

そして更に高額なのが、「ディミエ」シリーズのコンプリケーションです。一目で見分ける特徴は、ボヴェのリューズは12時位置が基本なのですが、ディミエは従来の3時位置にリューズを配しています。6000万円を越えるコンプリケーション「ディミエ リサイタル22」(上写真)は、太陽・月・地球の3つの天体が文字盤内に配されており、半円に切り取られた地球儀と、その周りを回る小さな月、そして両面フライングトゥールビヨンを太陽とした、大変美しく芸術的な作品です。この時計史に残る素晴らしい作品は、数々の有名雑誌に取り上げられ、2018年には以前の私のブログ記事でもお伝えした、世界最高峰の「GPHG(ジュネーブウォッチグランプリ)金の針賞」を受賞しました。

また、上写真(ディミエ リサイタル26)をご覧頂きたいのですが、ケースが斜めになっているのがお分かりいただけますでしょうか。これは「ライティングスロープケース」といって、ボヴェ社が特許を取っている特殊な形状のケースで、6時に向かってベゼルが低くなる傾斜にすることにより大きな物を文字盤の中に入れることができるようになり、唯一無二のデザインにレイアウトすることができます。この画期的なデザインは、パスカル・ラフィーオーナー自らが手掛けたそうで、この立体的なアシンメトリーな形と美しく透明なサファイアクリスタルによって細部まで見る者を楽しませてくれます。先述した「金の針賞」の他、数々の称賛を受けているモデルにはこのライティングスロープケースが採用されています。パスカル・ラフィ氏は経営や蒐集に長けているというだけでなく、デザインの才能までも兼ね備えた凄い人物なのですね。

フルリエコレクション

今回ご紹介するジャンピングアワーは「フルリエ」コレクションの中の作品です。12時に配されたリューズが特徴で、これは創業当時の懐中時計へのオマージュです。現在の主力は1930年代に発表されて人気を博したモデルに着想を得て製作された「フルリエナインティーンサーティ」です。通常モデルが42mm、「ヴィルトゥオーソ」というモデルのフルリエは44mm、レディースは36mmの「ミスオードリー」で、パスカル・ラフィ氏の愛娘に因んで名付けられたモデルです。

2006年の垂直統合以来、ボヴェ社は独自のムーブメントや文字盤作りに更に磨きが掛かり、モデル名にもあるフルリエに古くから伝わる「フルリザン」という独特な美しい彫金はそのままに、毎年素晴らしい作品を次々と発表しています。特に私が驚いたのが、2021年に発表された文字盤にまさかの”砂糖”を採用したフルリエコレクションの「ミス・オードリー・スイートアート」です。(下写真)200年以上続くボヴェ社ではもちろんのこと、様々な時計ブランドを見て来ましたがどこにも見当たらず、砂糖を用いた文字盤というのは時計の歴史上初の試みではないでしょうか。パスカル・ラフィ氏によると、愛の甘さとお菓子が大好きな子供達の純粋さを砂糖で表現したそうです。このシュガーダイヤルは、特別な手法により熱や水で溶けることはなく、大粒な砂糖ひとつひとつに着色を施しグラデーションにしていくという、超人の卓越した技術による芸術作品、ひとつとして同じ文字盤はないまさに世界に一本だけのユニークピースです。

レディースモデルはダイヤモンドを採用したモデルが多く、ベゼルやインデックス、現行はリューズを囲う革ベルトの付け根部分にもダイヤモンドが敷き詰められているモデルもあり、ゴージャスな雰囲気に仕上がっています。「レディース・アマデオフルリエ」(”アマデオ”とは、特別な工具を使う必要がなく、瞬時にポケットウォッチやテーブルクロックに変身する画期的なシステムのモデルです)は職人の技が光る大変美しいエナメル文字盤やシェル文字盤、一度見たら忘れられない美しいパターンのギョーシェ文字盤など、多彩なバリエーションとなっています。

今回ご紹介する「フルリエ・ジャンピングアワー」は、保証書が無記入のため製造年が不明なのですが、おそらく2000~2006年頃のモデルだと思われます。ホワイトゴールドの重みが心地よく、ジャンピングアワーのギミックも楽しい一本です。大きく開いたシースルーバックからは、ムーブメントが覗き、半円のローターには伝統的な”フルリザン”彫刻が施されており動くたびに美しく揺れる装飾をご覧いただくことができます。ボヴェというブランドの腕時計だと一目見ただけで分かる、すなわちボヴェのすべてを体現しているモデル、それがボヴェ・フルリエなのです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今まであまりボヴェというメゾンのことを知らなかった方も多かったのではないでしょうか。この記事を読んで、少しでもご興味を持っていただければ幸いです。

気になられた方は是非、私までお声掛けくださいね。みなさまのご来店、心よりお待ち申し上げております。

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