クロノメーターとは?知っている様で知らない「クロノメーター」の事実
2023-02-20 11:30
エバンス オンラインショップ担当の大貫です。
今回は時計好きならお馴染みの「クロノメーター」について。近年では技術の向上により、一昔前よりも格段に増えてきた印象がありますね。
クロノメーターは、スイス公式クロノメーター検定期間(C.O.S.C. = Contrôle Officiel Suisse des Chronomètres)が検査する時計規格です。15日間で姿勢差や温度差による精度検査が行われ、基準を満たすことで認定されます。
「クロノメーター=精度が良い」。確かにその通りですが、その歴史や検査までご存じの方は少ないと思います。
クロノメーターの歴史
クロノメーターの歴史は18世紀に遡ります。 船の位置を知るための天測航法が確立する中で、船舶時計「マリンクロノメーター」が発明され、これにより海上での正確な航法が可能となり、航海の安全性が大幅に向上しました。
きっかけは、1707年の海難事故。18世紀に入り海運業が盛んとなり、正確な位置を知るための方法として天測航法が発達。正確な標準時を知ることができれば、天測により位置を知ることが可能で、精度が高ければ高いほど、より正確な位置を知ることができるため、時計精度の発展が進みました。
当時、時計は振り子時計しかなかった時代で、1735年に大工のジョン・ハリソンが船上で使用する振り子を持たない船舶用時計「マリンクロノメーター」を製作。以降マリンクロノメーターの量産化にあたり、1776年に規格が生まれ、検定を実施したことで「クロノメーター検定」が誕生することとなります。
“腕時計”の精度検定が始まるのは1870年代。アメリカで高精度な時計の量産が進み、その対抗策としてスイス時計は高精度化が進み、当初はスイスのヌーシャンテルで始まり、徐々に盛んになります。
その後、欧州諸国で高精度の時計が増えたことで、評価を付ける天文台コンクールが行われるようになり、精度の規格化ができてきます。このころでは45日間で5姿勢、3温度で測定し、精度を競うコンクールが盛んに行われ、各メーカーはコンクール仕様のムーブメントを開発し、後に市販品に活かされるようになります。
その後、市販用の新しい検定基準が求められ、1951年には一般時計を検定する、時計歩度公認検定局(B.O.)が設立。1973年には時計歩度公認検定局(B.O.)から、スイス公認クロノメーター検定協会(C.O.S.C.)へと組織変更となり、 1965年に国際標準化機構(ISO)でクロノメーター規格が議論され、1976年に現在のクロノメーター規格が制定されました。
意外と知らないクロノメーター
知っている様で知らないクロノメーター。以下の点もあまり知られていないのではないでしょうか。
- 秒針が付いていないムーブメントは対象外
- スイス製ムーブメント以外は対象外
- クォーツやクロックも認定の対象となる
- ムーブメントだけの状態で検査となるため、着用精度ではない
- 1976 年は20万個、2000年に100万個 、2021年では220万個が認定
- 基本すべてのムーブメントを検査するが、ロレックスは免除
- ジュネーブシール取得の場合、クロノメーターも表示することが可能
- 1960年代の日本製クロノメーターはCOSCの検査を受けていない
- 機械式ムーブメントでは、直径や面積により2つの規格がある
- 検定所は3か所(ビエンヌ/ル・ロックル/サンティミエ)ある
クロノメーターの規格・検査基準
クロノメーターの精度を評価するために、C.O.S.C.による検査が行われます。 C.O.S.C.による検査は、製造元から送られたムーブメントに対して、15日間にわたり様々な条件下での計測を行い、その精度を評価します。
ちなみに腕時計用ムーブメントの場合、 5姿勢(文字盤上やリューズ下など)、 3温度(8、28度、38度)の変化に対して安定した精度を維持できるかどうかがテストされます。
なお、機械式ムーブメントの場合は、サイズにより精度の基準が異なります。直径が20mm(面積314㎟)以上の場合は、平均日差 -4秒~+6秒以内。直径が20mm(面積 314㎟ )未満の場合は、平均日差 -5秒~+8秒以内が基準となっています。
上記のような詳細な検査を行い、クロノメーターの精度が認められた時にのみ、 C.O.S.C.からクロノメーター証明書が発行。各メーカーは独自の証明書を作成し、付属されます。
“クロノメーター”を冠する別規格
クロノメーターを名乗っているものの、よく目にするクロノメーター( C.O.S.C. )とは別規格のものが幾つかあります。
下記はその一例ですが、いずれも精度検定の1つですので、高精度を証明する規格であることは変わりません。ただ検査内容や基準も異なるので、別物とお考えいただいた方が良いと思います。
マスタークロノメーター
クロノメーターの認定を受けた後、さらにスイス連邦計量・認定局(METAS)が定めた8つのテスト(3つの精度テスト、3つの耐磁テスト、パワーリザーブ、防水テスト)を受け、15000ガウスの耐磁性能、日差0~+5秒以内であること確認するなど、2つの規格に認定される最高水準の精度、耐磁性を備えた性能を有します。 主にオメガやチュードルの時計に搭載されているムーブメントの規格。
ロレックス 高精度クロノメーター
2015年よりスタートした、ロレックス社独自の検査基準。ムーブメントは、クロノメーターの認定を受けたものを使用する事が前提であり、更に自社内で行う厳しい一連の検査をパスした時計に与えられる称号。 ケーシング後の状態で平均日差が−2〜+2秒に収める。磁気や環境変化に対しても優れた性能を発揮するため、実用的な時計としても高い評価を受けています。
ドイツクロノメーター
ドイツ・クロノメーターは グラスヒュッテ天文台で行われる検定。基本的にはスイス・クロノメーターと同じような検査基準ですが、ドイツクロノメーターはケーシングされた完成品で行う点が異なります。
歴史的には1875年のハンブルク海洋気象台によるクロノメーターコンクールが始まりと言われており、その後にドイツ最大の時計販売店「ヴェンペ」により、1989年に再興が計画され、2006年に検定を行うグラスヒュッテ天文台が復活。国立物理標準研究所や、チューリンゲン州度量衡管理局、ザクセン数度量衡管理局などが携わる公的機関となっています。
代表的な認定ブランドとしては「ヴェンペ」があります。
ブザンソン国立天文台クロノメーター
フランスのブザンソン天文台が規格する精度検定。 スイス・クロノメーターの3倍コストが掛かると言われています。テスト内容は基本的にクロノメーターに準じているものの、近代的な危機は使用せず、手作業など伝統的な手法を用いているため、高コストとなっています。
代表的なブランドでは、「ロジェ・デュブイ」が認定されています。
まとめ
近年では、機械化や自動化された製造技術の進歩により、より手頃な価格のクロノメーターも登場しており、一概にクロノメーターが高級機ということではありません。
また、「クロノメーター」の認定を受けていなくとも、自社内において、それ以上に厳しい基準で検査を行うメーカーもあります。例えばIWCやジャガー・ルクルト、グランドセイコーなど。
クロノメーターの精度は、個体差や使用状況、メンテナンスの度合いなどによっても影響を受けるため、規格で定められた精度が常に保証されるわけではありません。したがってクロノメーターを選ぶ際には、規格だけでなく、ブランドやモデルの信頼性、メンテナンスの容易さなども考慮することが重要となります。