今回のエバンスブログは「左リューズ」の腕時計をピックアップ。2022年のロレックス新作(GMTマスターII 緑黒ベゼル 126720VTNR)で大きな話題となった仕様ですが、あまり見ない気もします。どんなブランドが作っているのでしょうか? そして、後半では、銀座エバンスで見つけた左リューズの時計を3本ほどご紹介します。
(追記 2022年10月のパテックフィリップ新作で、左リューズのグランドコンプリケーション(5373P)が発表されています。こちらは「左利き用」だそう。ロレックスに次いで、パテックフィリップでも登場した「左リューズ」。もしかして、流行の兆しありでしょうか?)
腕時計の「左リューズ」
腕時計のリューズは、普通は右側だが、それ以外の時計も存在する (■1、右リューズ:例 パネライ PAM00510: ■2、左リューズ:例 パネライ PAM00796: ■3、上リューズ:例 ボヴェ(懐中時計に着想を得たと思われる) ■4、リューズなし:例 カルティエ ミニ パンテール (裏蓋のボタンで操作する))
ゼンマイの巻き上げや時刻の調整などを行う腕時計のリューズ。普通はケースの右側に存在します。銀座エバンスの店頭を見渡しても、ほとんどが右リューズで、「左リューズの時計」はたまに見かける程度です。
左リューズの時計は「レフトハンド」モデルと呼ばれることがあります。英語の “left handed” で「左利き」のこと。「レフティ(lefty)」も同様の意味です。イタリア語で「デストロ(destro)」とも呼ばれますが、これは「右腕」に着用することに由来します。
ただ、ブランドやモデルによっては、左利き用と説明していない場合もあり、左リューズの時計は「左利きの人が右腕に着ける時計とは言い切れない」感じがあります。
ちなみに、世界で「利き手が左」の人は10人に1人くらいだそう。左リューズ仕様が珍しいというのは、その辺にも理由があるのかもしれません。
どんなブランドが作ってる?
(■パネライ公式サイトより 「left-handed」文字での検索結果。 PAM01075、PAM00557、PAM00796の3モデルを確認できる 出典:パネライ公式サイト ■グラハム公式サイトから 商品一覧 出典:グラハム公式サイト)
左リューズの腕時計はどの時計ブランドが作っているのでしょうか?探してみたのですが、やはり少ないようです。
左リューズのモデルで、まず思い出されるのがダイバー向けの「パネライ(PANERAI)」。WEBサイトを見ると、現在は左リューズのモデルが3種類並んでいます。イタリア軍用に左利き用(右腕に着用する)時計を手掛けていたことが由来だとか。
イギリスの「グラハム(GRAHAM)」には、大きいリューズが特徴的なパイロット向けのモデルが複数存在。これらは左腕に着用、右手でボタンやレバーを操作する仕様のようです。ドイツの「ジン(Sinn)」は、警察や消防などの特殊部隊にちなんだ左リューズモデルがラインナップ。ジンの場合も、左腕での着用を想定しているようで、「安全性を考慮した仕様」という説明が見られます。グラハムやジンは、左利き用(右腕着用)ということではなさそうです。
(■Sinn(ジン):公式サイトの検索項目に「逆位置リューズ」のチェック欄が存在 出典:ジン公式WEBサイト ■チューダー公式サイトから ぺラゴス LHD (Ref.25610TNL)の商品ページ 出典:チューダー公式サイト)
ロレックスの兄弟ブランドであるチューダー(TUDOR、旧チュードル)は、2016年に「ペラゴスLHD」というモデルを発売しています。こちらはチタン素材で現代的な本格ダイバーズウォッチ。LHDは”Left-Hand-Drive”の頭文字で、1970年代にフランス海軍に左利きダイバー向けの時計を特注されたことから着想したのだとか。
そのほかに、IWCのパイロットウォッチやORIS(オリス)のダイバーズウォッチ(アクイス)でも、限定モデルとして左リューズ仕様が発売されていました。
(■IWC公式サイトより ビッグパイロットウォッチ [ライト・ハンダー] 250本限定(IW501012) 発表時のニュース記事 ”Right-hander”の名称は「右腕に時計を付ける人」に向けたことから 出典:IWC プレスリリースページ(英語版) ■ORIS公式サイトより アクイス “レッド リミテッド” 2000本限定 出典:ORIS商品ページ)
そして、次の項で紹介する「タグホイヤー(TAG HEUER)」のモナコも一部モデルが左リューズ。2022年の新作「ロレックス(ROLEX)」GMTマスターII 緑黒べセルもブランド初と思われる左リューズモデルとなります。
ここからは、そんな今回の3本(パネライ、タグホイヤー、ロレックス)をご紹介します。
「左リューズ」の時計3本
1、パネライ ~短期生産の1本
(■エバンスWEBサイトでは、過去の取扱い品からパネライ左リューズモデルを5種類、エバンスブログで3種類ほどを見れる) ■パネライ公式サイト:レフトハンド説明ページ 出典:パネライ公式サイト)
左リューズの時計が比較的多い印象のパネライ(PANERAI)。かつて、イタリア海軍向けの時計や計測器を作っていた特殊な軍需機器会社だったという歴史を持ちます。
公式サイトに、左リューズモデルの説明もあり「1950年代にイタリア海軍の特殊潜水隊員の要望に応えるため誕生」、「コンパスや水深計を左の手首にすでに装着しており、時計を右に着ける必要があった」とのことで「左利きあるいは右手首に時計をつける方向け」としています。
(パネライ ルミノール マリーナ レフトハンド PAM00115 ※写真は過去の入荷品です)
今回ご紹介するのは「ルミノール マリーナ レフトハンド PAM00115」。2002年から2004年頃の約3年ほど作られていたモデルです。大きさはパネライでは標準的な44mmサイズ。ムーブメントは、手巻きのETA 6497-2 (1960年代のユニタス製 懐中時計用ムーブが基) をカスタムしたOP XIを搭載します。「スタンダードな定番モデル(PAM00111)の左利きバージョン」といった位置づけのモデルです。
(今回と同型のパネライ ルミノール マリーナ レフトハンド PAM00115 ※写真は過去の入荷品です)
裏蓋の枠部分に「EXXX/300」と製造番号が入っており、E番=2002年生産、この年に300本生産された1本。であることがわかります。
そして、この時計はリュースガードがつやつやの「鏡面」タイプ。ベゼルやケースも鏡面なのでキラキラと反射し、結構目がいくポイントではないかと思います。
レフトハンド(左利き)で右腕での着用を想定したモデルですが、ルミノールはリューズガードが大きいこともあり、「手首に当たらず快適」と、あえて左腕に着ける方も多いようです。
左リューズ、つやありリューズガードなど、パネライの中でもひと味違う1本となっているこちら。現在、当社アフターサービス部で整備中です。(※追記:その後、店頭に登場いたしました。ご興味ある方はぜひ。)
→PANERAI(パネライ) ルミノール マリーナ レフトハンド(USED)
(PAM00115、手巻き、44mm径、シースルーバック)
2、ホイヤー ~物語る個性
(■1970年代前半のモナコ セカンドモデル Ref.1533 ■今回の時計 TAG HEUER(タグホイヤー) モナコ キャリバー11 CAW211P.FC6356)
タグホイヤーからは「モナコ」をご紹介。角形防水ケースを使用した、世界初の自動巻きクロノグラフの一つで、1969年に誕生しました。その後、名優スティーブ マックイーンが映画で着用したりするものの、1970年代に生産中止となります。その後、1998年頃から徐々に復活し定番化。復活の過程で、右リューズが中心のモデルとなり現在に至っています。
こちらの「CAW211P.FC6356」は、2015年頃に発表された型番。1970年公開の映画「栄光のル・マン」でスティーブマックイーンが着用した初代モデルをイメージした復刻モデル的な1本となります。こちらは、特に限定モデルではないようです。
(■マットブルーのダイアル、横向きのバーインデックスも印象的 ■このモデルでは、裏蓋はシースルーバック)
目が行くのは左位置のリューズ。これには「初の自動巻きクロノで、手巻きのように巻く必要がなくなったことをアピールした」、「メカニズムの配置上、左リュースとなった」などの説があるようです。プッシュボタンは右側に配置されていてるため、左利き用でないのかもしれません。
裏蓋がシースルーバックで当時の仕様と異なりますが、マットなブルーダイアル、横向けのバーインデックス、HEUERロゴなどが、初期のモナコを思わせるいい雰囲気です。スクエアケースに左リューズという組み合わせは、誕生から50年以上経った現代でも独特の存在感かありますね。
→TAG HEUER(タグホイヤー)「モナコ キャリバー11」(USED) ※[SOLD OUT]
(CAW211P.FC6356、自動巻き(Cal.11)、39×39mm、カーフベルト)
(※こちらの時計、当ブログを作成中SOLD OUTとなりました)
3、ロレックス ~謎多い新作
(■ROLEX(ロレックス) GMTマスターII 緑黒ベゼル Ref.126720VTNR 2022年新作 ■2色セラミックベゼルの「グリーン×ブラック」の組み合わせはこのモデルで初登場)
最後は、ロレックス「GMTマスターII 緑黒ベゼル(Ref.126720VTNR)」。2022年3月に発表されたロレックス新作で一番の衝撃だったこちら。左リューズに左の日付という、誰も予想していなかったモデルではないでしょうか?
こちらのGMTマスターIIは、ロレックスの一般モデルでは初と思われる左リューズ仕様。過去に通常モデルで左リューズ仕様はなかったようですが、特注品や試作品として作られたことはあるようです。(最近では、2019年のフィリップスオークションでGMTマスターRef.6542が出品された事例があるとか)
(■ロレックス公式サイトより オイスター(3列)とジュビリー(5列)2つのブレス仕様が存在。型番は同じ 出典:ロレックス公式サイト ■公式サイトの説明ページより 出典:ロレックス公式サイト 2022年新作説明ページ)
公式サイトを見てみると、「レフトハンド(左利き用)モデル」とか「右腕で着用」といった表現は一切なく、あるのは「リューズを左側に、日付を9時位置に動かすには、さまざまな調整が必要だった」「最終検査における精度テストの工程も変更した」ということくらいです。
このモデルは、左利き用なのか? なぜ今? 今後ほかのモデルで出るのか? 右腕でも左腕でも着けてくださいという意味なのか? など、謎が謎を呼ぶ1本です。秘密を残しておくことも、ロレックス マジックの一部なのかもしれません。
(■日付も9時側に配置されている ■ブレスレットは通常のモデルと同じ向きに開く)
ちなみに、型番の「VTNR」はVTがフランス語の「Vert(=緑色)」、NRが「Noir(=黒)」から命名されているようです。そのベゼルの色合いから、早くも「スプライト(Sprite)」というニックネームで呼ばれているとか。
なお、ブレスレットは、他のステンレスケースのGMTマスターIIと同様にオイスター(3列)とジュビリー(5列)の2種類が存在します。
こちらの時計、登場から半年くらい経ちますが、結構なプレミア価格となっており、その点でも今後の動向が気になるモデルの一つです。
→ROLEX(ロレックス)GMTマスターII(新品 2022年新作)
(Ref.12720VTNR、40mm径、70時間パワーリザーブ、オイスターブレス)
右利きでも、左腕でも楽しみたい
今回はパネライ、タグホイヤー、ロレックスを中心に「左リューズの腕時計」を見てみました。各社それぞれの位置づけがあるようです。
左リューズの腕時計は、種類も数も少ない。軍向けの特殊モデルがルーツの場合が多い。「レフトハンド(左利き用)」とは限らない。といったことが見えてきました。
左リューズの時計は、右腕に着けた方が左手での操作性が良いのですが、左腕に着けることでリューズが手首に当たらない、安全性が上がるというメリットもあったりします。
左リューズの時計は右手に着けるべき、という決まり事もなさそうです。左リューズの腕時計に出会ったら、試しに左腕に乗せてみるのもいいかもしれません。