時計修理の心がけ
2020-06-01 11:30
エバンスアフターサービス部です。
今回のエバンスブログは少し趣向を変えて、普段皆様があまり目にすることのない腕時計修理の一端をご紹介していきたいと思います。
腕時計の修理に使う道具、と聞いて皆様は何を思い浮かべるでしょうか。ドライバー、ピンセット、時計屋さんが目につけているアレ・・・
他にもたくさんありますが、今回は主役級工具であるピンセットを通して、私たち技術者が時計修理の際に心がけていることについてご紹介します。
時計修理工具の主役:ピンセット
時計修理をする上でピンセットを使わない日はありません。
こちらは、私が普段よく使うスタメンピンセットです。この他に控えのピンセットも何本かあります。用途により使い分けるので様々な材質、形状のピンセットがあります。
部品をつまんで運ぶ。つまんで組み込む。おさえる。形を整える。主にこういった作業をピンセットで行います。
作業中、お客様からお預かりした大事な時計のパーツにキズをつけないように、落とさないように、飛ばして無くさないように、壊さないように、私たち技術者は常に心がけています。
心がけと共に大切なのが、道具の使い方を身につけることと、道具を目的にあわせて整えることです。
時計修理道具の使い方を身につける
時計のパーツをキズつけずにいる為にはパーツに触れないことが一番です。ですが触れずに見ているだけでは修理作業が進みませんので、パーツに触れる回数をいかに少なくするか、が大切になってきます。
パーツに触れる回数を少なくする為、パーツをつまんだピンセットを手の中で、くるりと回すということを私たちはよくします。写真で説明します。
例えば次に組み込むパーツが裏返しに置いてあった場合
↑このようにすると手順が3つ、タッチが2回ですが、
↑このようにすれば手順が2つ、タッチは1回で済みます。
始めは上手にできません。ピンセットを回転させることに集中すると、はさむ指の力が弱くなり、パーツが落ちます。パーツを落とさないことを意識しすぎると、ピンセットを回転させられなくなったり、はさむ指の力が強くなりすぎてパーツをはじき飛ばしたり・・・。練習と経験が必要です。
私は時計修理を始めた頃、ピンセットのキャップをピンセットで持ってくるくる回す練習をしました。
実践の積み重ねが重要であることは言うまでもありませんが、時計修理に取り掛かる前段階として、こういった練習も必要です。
道具の使い方を身につけることで部品を傷めるリスクを下げ、作業のスピードアップを図ることもできます。
時計修理道具の整備について
私が12年前エバンスに入社した時、当時のアフターサービス部部長に指導をしてもらっていました。その時の指導の一つに、ピンセットのうち一本はごく小さなものをスッとつかめるように、先端を整えておくこと、というものがありました。
そのごく小さなものの例として挙げられていたのがこちらです。
単体で見ると大きさが分かりづらいので人差し指に乗せました。
バネです。時計にはテンプという部品がありますが、とてもデリケートなその軸を守ってくれているバネです。
サイズもさることながら、とても薄い、細い、とにかく小さいパーツです。扱う時は気を遣います。
ピンセットでつかみます。
拡大します。
バネをこの向きでつかめるようにピンセットを整えます。バネの厚みは、、、
マイクロメーターという計測器具で測ったところ0.045mmでした。例えが難しいのですが、髪の毛の半分ぐらいの厚みです。
え?これをピンセットで?と最初は思いましたが、時計修理の作業をする以上、これは避けられません。オーバーホールをする度に取り外すパーツではありませんので、毎回このバネをピンセットで持つということはありません。ですが、いつでも必要な時に必要な作業が素早く出来るよう、道具は整えておくようにという教えだったと今は考えています。そしてその教えを今も守っています。
まとめ
エバンスアフターサービス部では修理の基本を大切にしつつ、更に技術の研鑽に励んでいます。
そしてお客様からお預りした時計や、お買取させていただいた時計を、心を込めて修理しています。時計のご購入からお手入れまで、是非エバンスに安心してお任せ下さい。