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機械式時計はなぜ磁気に弱いのか?注意すべきポイントとは

2020-10-23 11:00

エバンス オンラインショップ担当の大貫です。

“スポーツウォッチ”というジャンルもあるように、丈夫な印象もある機械式時計ですが、歯車やレバーなど数百個のパーツで動いている精密機器であることは間違いありません。その為、様々な影響により故障の原因となりますが、今回はその一つ「磁気帯び」に関してご案内したいと思います。

水や、埃と違い、磁気は目に見えないため、普段気にすることはほとんどありませんが、テクノロジーが進んだ現代では磁気を発生させる多くの機器が溢れています。一般的な機械式時計の場合、磁場の影響を受けやすく、磁気が内部に入る事で精度不良を起こしてしまいます。

「磁気帯び」とは

弊社では時計の修理を承っていますが故障原因として比較的多い症状が「磁気帯び」。 腕時計の内部には金属製のパーツが多く使用されていますが、そのほとんどが磁気を帯びやすい素材で、強い磁力に接するとパーツが磁気化し、時間が遅れたり、止まったりする原因となります。

特に機械式時計の場合、磁気から遠ざけても個々のパーツに磁気が残ってしまい、その影響で不具合が出る状況が「磁気帯び」です。一度磁気が入ると修理(磁気抜き作業)が必要となります。

以前は時計に磁気が入るようなことはほとんどなく、一部の特殊環境下(レントゲン技師や発電所など)に限られていましたが、現在身の回りには磁気を発するモノが多く存在し、いつの間にか時計に入り込んでしまいます。携帯電話のスピーカーやバイブレーター、PC、最近では、タブレット端末用のカバーに使用される磁石が非常に強力ですので、注意が必要です。

1984年に登場した非常に強力なネオジム磁石の開発により、イヤフォンをはじめ、電気製品が小型化 。今ではどこに使用されているか非常に分かりにくく、気を付けても磁気の影響を受けてしまいます。もちろんカバンのマグネット、電子レンジ、磁気ブレス、肩こり用の磁気製品などにも注意が必要です。

デジタルウォッチには磁気の影響を受けるパーツがほとんどないため、基本的に問題はありません。

磁気を発する機器

磁気に注意するポイント

目に見えない「磁気」を気にされる方は少ないと思いますが、磁気は様々な所に存在し、いつの間にか時計に磁気が入り込んでしまいます。 『磁石』そのものはもちろん、携帯電話やパソコン、家電製品、ヘッドホン、スピーカーなど気を付けるべきモノが多くあります。

しかし、『磁気の強さは距離の二乗に反比例する』というクーロンの法則により、磁力は距離が離れれば離れるほど弱くなります。非常に強力な磁力でも、多くのものは5cm程度離れていれば、影響はほとんどありません。


磁気帯びの見分け方

個人でも磁気帯びを見分けることが出来ます。100円ショップなどでも手に入る方位磁石があれば比較的簡単です。 時計を方位磁石(コンパス)を時計に近づけ、 方位磁石の針が動いてしまうのであれば、磁気帯びの可能性があります。

ただ、磁気が入っているからと言って、必ず不具合が出るわけではありません。影響がない場合がほとんどですので、あくまで目安としてご確認いただけれなと思います。

磁界の強さ一例

  • スマートフォンのスピーカー ~ 22,400A/m
  • タブレット端末 ~32,000A/m
  • バッグ、携帯電話ケースなどのマグネット ~270,000A/m
  • 磁気ブレスやネックレス ~100,000A/m
  • 肩こり用磁気製品 ~144,000A/m
  • 電気シェーバー ~10,400A/m

耐磁時計の歴史

磁力から時計を守る専用時計もあります。いわゆる耐磁時計と呼ばれるタイプで、ロレックスのミルガウスが有名ですが、耐磁時計の歴史は、1949年に誕生したIWC「マーク11」から始まります。 第二次世界大戦時にレーダーのマイクロ波が時計に影響し、磁気帯びが問題となったことで開発されました。ムーブメントを非磁性の“軟鉄(鉄とニッケルの合金)”のシールドで覆うことで耐磁化。 1940年代から変わらず、耐磁時計は現在もこの方法が一般的となっています。

出典:IWC公式サイト
https://www.iwc.com/ja/watch-collections/pilot-watches.html

磁界の強さの単位「A/m(アンペア毎メートル)」と「ガウス」

時計業界では、磁力を表す単位として、「A/m(アンペア毎メートル)」が中心ですが、ロレックスの『ミルガウス』の様に「ガウス」を使用すこともあります。

基本的に【 1ガウス ≒ 80A/m 】と言われますが、ガウスと A/mでは元々の単位が異なります。詳しくは専門的なことになるので説明を省きますが、「ガウス」は磁束密度、「A/m」は磁界の強さを表します。

ちなみにロレックスのミルガウスの「ミル」は、フランス語で「1,000」という意味ですので、A/mに換算すると8万A/mの耐磁性能となります。また『テスラ』や『エルステッド』も磁力を表す単位ですが、時計業界ではあまり使用されません。

代表的な耐磁方法

時計を耐磁化するにあたり、いくつかの方法がありますのでご案内したいと思います。

軟鉄素材によるシールド

先にご説明した『IWC マーク11』の様に、 ムーブメントを非磁性の“軟鉄(鉄とニッケルの合金)”のシールドで覆って対応する方法。耐磁化する手法としては一般的なっています。他にもヴァシュロン・コンスタンタンのオーバーシーズや、オメガのスピードマスターも同様の方法で耐磁化しています。

オメガ スピードマスターの軟鉄製耐磁シールド

強磁性合金を使用した方法

ロレックスのミルガウスが採用している方法。非磁性の軟鉄を使用せず「強磁性合金」を使用している点が特徴で、磁気を受け流すのではなく、磁力を吸収する仕様です。

また、ロレックスではムーブメントの一部パーツにも非磁性のパーツを使用することで、耐磁性能を高めています。

ミルガウスの強磁性ケースバック

ムーブメントを非磁気化

ムーブメントそのものを非磁気化する方法。非磁性素材や非鉄素材を使用することで実現したオメガの自社ムーブメント『マスターコーアクシャル』が代表的です。日常では磁気帯びの可能性はほとんどなくなり、かつシースルーバック仕様やデイト表示もできる様になっています。

超耐磁ムーブメント “マスターコーアクシャル”

耐磁性能のスタンダード化 オメガ「マスターコーアクシャル」の功績

一般的な機械式時計も、製品規格として一定の耐磁性能 (4800A/mほど) が備わっているものの、スマートフォンの普及や、無線機器、Iotなど、モノがネットワーク化している昨今、身の回りには強力な磁力を発するモノが溢れています。

その為、耐磁性能は現代では必須の機能になりつつありますが、まだまだ各ブランドとも対応モデルが少ないのが現状です。

オメガでは当時、メンテナンスが必要な時計の54%が磁気帯びをしていたそうで、 2013年に耐磁性能に特化した「シーマスター アクアテラ 15,000ガウス(Ref. 231.10.42.21.01.002)」を発表。 翌年には「マスターコーアクシャル・ムーブメント」として量産化され、現在ではほとんどのモデルに採用されています。

シーマスター アクアテラ 15,000ガウス(Ref. 231.10.42.21.01.002)

ムーブメント自体を非磁気化した「マスターコーアクシャル」は、オメガでは現在発売されているほとんどのモデルに搭載。 公式の耐磁性能は1万5000ガウス(≒ 1,200,000A/m) ですが、非公式には8万5000ガウス(≒ 6,800,000A/m)もの超高耐磁ムーブメントになっているそうです。

ムーブメント自体の非磁気化は、機械式時計の歴史としては大きな転換点と言えます。

今後は耐磁機能が必須となるか

耐磁時計に関しては、機能的には地味なものではありますが、現代には無くてはならない機能と言えますね。今後は『防水』と共に必須な機能になってくるのではないでしょうか。『耐磁』もチェックしておきたい項目です。

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