ロレックスにおける3針と4針の機構を技術者目線で解説
2020-06-08 11:00
こんにちは。EVANCEアフターサービス部の川田です。コロナの影響で大変な日々が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は免疫力をあげる為、筋トレを行う日々です。皆様もお体ご自愛下さい。本当に早い終息を切に願っています。
ロレックスにおける3針と4針の比較
さて、今日は3針と4針の時計の機構の違いをロレックスの名機Cal.31系で見ていきます。少しマニアックな内容になると思われますが、最後までお付き合い下さい。
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Cal.3135は、サブマリーナーデイトやデイトジャスト等の3針モデルに搭載されるベースムーブメントです。このCal.3135に追加機能としてGMT機構を乗せることができます。このGMT機能を持つ4番目の針を付加したものがCal.3175とCal.3185,Cal.3186となります。
これらは4針の時計(GMTマスターⅡやエクスプローラーⅡ)に搭載されているもので、それぞれ構造やパーツが異なります。今回は3針のCal.3135と4針のCal.3175,Cal.3185を比較していきます。ベースムーブメントは同じながらそれぞれ違ったGMT機構が付加されたムーブメントの構造やパーツの違いを解説していきたいと思います。
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↑写真3枚それぞれ違う機構を搭載したムーブメントですが、写真に写っている表側は3機とも内容は同じものです。4針にするための機構(後述よりGMT機構)はこの裏に付加機構としてとりつけられます。
GMTとはなにか??
GMTについて説明していきたいと思います。知識のある方はここを飛ばして下さい。
GMTとは“Greenwich Mean Time”の略で、いわゆるグリニッジ標準時のことです。一度は聞いたことがある言葉だと思います。イギリスの標準時のことですが、今で言う協定世界時(UTC)と同義として使われています。腕時計の機能としてのGMTは第二時間帯を表示できるものです。通常の針とは別に第二時刻を表示する針があり、例えば、海外に旅行に行ったとき瞬時に自国の時間を見ることができます。
ロレックスのGMTムーブメント構造
それではGMT機構がどのように付加されているかみていきましょう。まずはCal.3135(3針)とCal.3175(4針)を比較していきます。こちらはダイヤルが取り付けられる側です。ダイヤルの下にはこのような世界が広がっています。
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一見同じに見えますが、パーツの高さや形状に違いがあります。細かくみていきましょう。下の写真はムーブメント中心部のパーツです。上から一段目と二段目は針が付いて回転するパーツで三段目がその補助をするパーツです。
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Cal.3175(4針)はパーツが一つ多いです。一番上のこの追加されたパーツに24時間針が取り付けられます。それぞれ歯車のサイズやカナ、形状が違います。追加された24時間針を動かす為に工夫されているためです。この24時間筒車は1週で24時間するよう歯数が調整されています。
二段目の歯車(筒車)には12時間針(時針)が取り付けられます。この12時間筒車は日の裏車と接していて2週で24時間回転するよう作られています。
三段目の歯車は日の裏車と言います。歯先は分針を動かすパーツ(筒カナ)に接し、筒カナからの力を12時間歯車に伝えています。真ん中のカナが二段目にある歯車(12時間針のつく)を動かす仕組みです。Cal.3175の24時間筒車が少し大きく作られているのがわかると思います。この24時間筒車を回す為に下の日の裏車のカナを小さくして合わせています。
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横から見るとこのようになっています。右のCal.3135(3針)の12時間筒車は分厚くなっているのがわかりますでしょうか。分厚く作られているのには理由があります。ベースとなるCal.3135は汎用性を持たせるために厚く作られ、Cal.3175(4針)を想定しています。実際に写真のCal.3175の筒車は薄くなっています。この二枚の筒車を重ねて組み込む分の厚さとCal.3135の筒車の厚さがだいたい同じ厚さになるよう設計されています。
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こちらはカレンダー中間車と言うパーツです。筒車の針回しを行うエネルギーをカレンダーを送る車に伝える役割があります。針が回るのと連動してカレンダーを動かしています。Cal.3175(4針)の方が、カナの部分が長めに作られていたり真の長さが違うのは、他のパーツと高さを合わせる為です。
Cal.3175とCal.3135は4つのパーツが違うだけでおおまかな構造の変化がないのがわかります。単純な分、機能が制限されます。12時間針を単体で回すことができないのが、このCal.3175の特徴です。
同じ4針ムーブメント、Cal.3175とCal.3185の違い
次にCal.3135(3針)とCal.3185(4針)を比較していきましょう。先に解説したCal.3175と違いCal.3185は12時間針を単体で動かすことができるのが特徴です。その分、特殊なパーツが使用されています。
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見てすぐにわかる程度に違いがあると思いますが、実際内部パーツもかなり違ってきます。細かく見ていきましょう。
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この歯車は4番車と言う“秒針”が取り付けられる歯車です。この歯車の真が長いのには理由があります。後述しますが、GMTを単体で動かす為の特殊な歯車が少し厚めに作られています。そのパーツを搭載する為、ムーブメント自体を厚くしています。その分、他のパーツも高く作っているというわけです。
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こちらは筒カナと言う分針が取り付けられるパーツです。高さが違います。またこちらも後述の特殊な歯車が関係している為少し高く作られています。
4針ムーブメント 「Cal.3185」の特徴的パーツ
Cal.3185で特徴的なパーツといえば写真左下のパーツの24時間筒車です。
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左は24時間筒車と12時間筒車
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先ほどより“特殊”と何度か書いた歯車がこの赤い人工ルビーのカバーが乗っている24時間筒車です。24時間針が取り付けられ、針単体で動かせます。二段構造になっていて、上の歯車がパチパチと小気味よく回転します。内部(ルビーのついた歯車)には24枚の歯があり、回転を制御するレバーとそれを押えるバネが納められています。12時間針を送る際に一時間毎動くようそれぞれのパーツが連動しています。
それでは24時間筒車を分解していきます。
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二つレバーの間でバネが突っ張っています。
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完全に分解するとこんな感じです。ルビーの付いた歯車カバーをCリングで留めています。
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Cal.3185の日の裏車もCal.3175同様に24時間筒車のサイズに合わせてカナを小さくしています。
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これはカレンダー中間車です。Cal.3185(4針)はカナが一つ多く作られています。真ん中の溝は24時間筒車の歯を逃がす為に切込みが入れられています。
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これはCal.3185の切替伝え車(コレクターホイール)です。
ベースとなるCal.3135では、この歯車の隣に星型の歯車がありカレンダーを早送りすることができます。この部分の力の伝達構造に少し違いがあります。Cal.3185ではカレンダー早送りは24時間筒車のルビーの付いた歯車を介してカレンダー中間車→カレンダー車と12時筒車(時針)を回転させ、早送りしています。↓写真
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↑カレンダー車とカレンダー送り爪と言う二つのセットパーツも違います。どこが違うかといいますと….
この歯車は12時間筒車と連動してカレンダーを送るものですが、厚さが違います。これも24時間筒車が厚めに設計されている為、高さを合わせる為に厚くなっています。
特殊な24時間筒車を使う為、ムーブメント自体を厚くして他のパーツも合わせて高くしている事がわかります。Cal.3185はカレンダー表示部のパーツだけで10箇所近く違うパーツが使われています。24時間針を単独で動かすにはこれだけの変化が必要になります。
まとめ
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【Cal.3175】
4つパーツを変え24時間針を取り付けられるようになっていますが、24時間針を単独で動かせない
【Cal.3185】
多くのパーツを変えGMTに対応し、24時間針も単独で回転可能にしたパーツが使われている。
ベースとなるCal.3135から大きく構造に変化があるわけではないことがわかります。3針のムーブメントをベースに4針にする為の機構が追加されている様子を解説してきましたが、針を一つ増やす為にこれだけ考えられて作られているのです。
当社ではこれらのムーブメントが搭載された時計の販売、修理をおこなっております。気になる商品がありましたら、お問い合わせ下さい。