パテックフィリップ「ゴールデンエリプス」
2025-05-20 11:00
こんにちは、銀座エバンスの稲田です。
本日はパテックフィリップから「ゴールデンエリプス」のご紹介です。

ゴールデンエリプスとは
1968年に発表されたこの名作は、フランス語の「エリプス=”楕円形”」から名付けられました。丸と長方形が融合した美しくゆるやかなカーブを描いたやわらかい印象のケースは、とても薄いつくりで腕にそっと乗せてみると心地よい金の重み、あたたかみも感じられる腕時計です。
丸形、長方形が主流の時代に今まで誰もつくらなかった楕円形のケースを持った腕時計は、当時万人受けではなく一部の時計愛好家達のコレクションでした。この楕円形の縦横は1:1.6181であり、いわゆる”黄金比”と呼ばれる調和の取れた最も美しい比率であるといわれています。黄金比を用いた有名な作品には「モナリザ」、「ミロのヴィーナス」、「ピラミッド」などがあり、これらと並ぶ名作であるパテックフィリップの「ゴールデンエリプス」は、一目でそれとわかる個性が光る作品です。
一番最初のゴールデンエリプスは、深みのある青の文字盤に、やや長めの細いインデックスと細めの針、イエローゴールドのケースでした。その後、アラビア数字・ローマ数字・ダイヤインデックスなど文字盤バリエーションを広げ、小さいものや大きいものまでいくつかのサイズも展開しています。ムーブメントは電池・手巻き・自動巻きの三種類で、他のパテックフィリップのモデル同様、ニ針で日付つきが電池、ニ針が自動巻き、三針が手巻きとなっています。
インデックスを持たない文字盤、ベゼルが”クル・ド・パリ”仕様になっているモデル(下写真)、”シャンルヴェ七宝”に手彫りの美しい彫金を施した豪華な文字盤なども存在しますが、とてもシンプルな針が二本か三本というのが基本のデザインです。ゴールデンエリプスとは、発売から50年以上経った今も途切れることなくつくり続けられている、ユニークで独創性溢れる男女兼用の”ドレスウォッチ”なのです。

最近のゴールデンエリプス
私が初めてゴールデンエリプスに出逢ったのは、入社した2005年の冬頃で、その頃は他の人同様、ご年配向けのモデルだなという印象でした。やはり、ノーチラスやアクアノート、その他様々なコンプリケーションにばかり目が行っており、この隠れた名作を見出すことができていなかったのです。その控えめな印象だったゴールデンエリプスに、2021年、先程も少し触れた全面手彫りの華やかな彫金文字盤”5738/51G”が突然登場し、私自身グッと心を掴まれたのを今でも覚えています。
そして昨年、非常に繊細で美しく編み上げられたような見事なチェーンブレスレットを装備したモデル”5738/1R”が発表され、私は完全にゴールデンエリプスという作品に心を奪われてしまいました。(下写真)そこから過去のモデルが気になるようになり、今回タイミングよく当社の顧客様よりご委託をいただいたゴールデンエリプスをご紹介できたというわけです。

現行は4型で、サイズは4型とも同じ大きさの34.5×39.5mmと以前に比べかなり大型化しており、レディースのノーチラスとメンズノーチラスの中間位のイメージです。キャリバーは同社が誇る”超薄型自動巻きムーブメント”キャリバー240、黒文字盤のリューズにはオニキスが採用されています。今回ご紹介する文字盤もそうですが、クラシカルな現行の青文字盤のケース素材には最高峰のプラチナケースが採用されており、他モデルとは一線を画す存在感を纏っています。
先述した今まで見たことのない大変華やかな彫金文字盤の「5738/51G」はホワイトゴールド製で、調べてみた所2018年、ゴールデンエリプス生誕50周年を記念したプラチナ製の「5738/50P」世界限定100本が初出でした。これは、熟練の彫金師によってゴールドに唐草模様と渦巻き模様の手彫りがなされた文字盤に、彫金のない部分に”シャンルヴェ”という七宝焼きを施します。すべて人の手によってつくられた美しい文字盤は、見ていて溜息が出る程素晴らしい芸術作品です。
同じように心を奪われてしまった「5738/1R」に関しては、先に述べたようにそのブレスレットのつくりが見事、この一言に尽きます。私自身、今までの人生の中で、”ミラネーゼブレスレット”と呼ばれるすごく繊細に編み上げられた平べったいまるで一枚の布のようなブレスレットしか見たことがなかったんですよね。これは1950~1960年代、今から60~70年前に流行った手法の形状なので、良く言えば古き良き時代を感じ取ることができるデザインなのに対し、2024年に登場したこのモデルのブレスレット構造の斬新なこと…!現在、パテックフィリップのホームページ、ゴールデンエリプスのページで「チェーン・ブレスレットの再発明」として動画を見ることができるのですが、永遠に見ていられます笑。
このチェーン・ブレスレットの開発にはなんと15年もの歳月が必要だったそうで、300個以上の小さな18金ローズゴールドでできた部品を熟練の時計師が手作業でひとつずつ組み立て、363個のエレメントから構成されています。艶々の繊細な部品もひとつひとつ手作業で磨き上げられ、程よい厚みと奥行きのあるつくりのブレスレットはしなやかに手首に沿ってくれるんでしょうね。
私がそうだったように、今までシニア向けだと思われていたゴールデンエリプスへの概念が覆る一本だと真剣に思います。このモデルが若い層へのアプローチとなり、ゴールデンエリプスはこれから幅広い年齢層から愛されるコレクションとなることでしょう。

いろいろなゴールデンエリプス
今回ご紹介する「3978J」はスモールセコンド(秒針)付きなのですが、現行もそうですが現在市場に出ている物のほとんどが秒針なしの二針で、実はスモールセコンド付きのモデルは珍しいのです。
これまで、エバンスに入荷をしたゴールデンエリプスで一番稀少なのは「5028G-001」ではないでしょうか。(下写真左)まず、数字がノーマルモデルの”バー”でも、”ローマ”でもないアラビア数字という所と、小さなスモールセコンドが4時位置に付いているというレア文字盤で、現在販売しているお店を見付けることができませんでした。次に珍しいモデルは、「3848」ですが、ノーマルはバーインデックスで、2015年当時入荷したモデルには数字の代わりに12Pダイヤモンド、更にガラスにカラトラバ十字がプリントされている上にシースルーバックなんです。(下写真右)

その他、入荷したことはないのですが、ベゼルダイヤのモデル、幅広ベゼルのモデル、クルドパリベゼルでアラビア数字文字盤のモデルやテレビみたいな形の異色モデル、レディースでは華やかなシェル文字盤など、1970年代から現在まで様々な種類のゴールデンエリプスが存在します。
革ベルトモデルの尾錠は、ケースと同じ可愛らしい楕円形の形をしており腕に着けた姿までもこだわったパテックフィリップの意匠が感じられます。
ゴールデンエリプスとは、ミニマルでエレガントな一面を持ち、主張していないのに一際存在感を放つとっても不思議な腕時計なんです。

おわりに
いかがでしたでしょうか。この記事を読んで少しでもゴールデンエリプスのことを好きになってもらえたら嬉しいです。気になられた方は是非、ご来店なさって一度お手に取ってみて頂きたいです。いつでもお待ちしております。
そして実は私事ではございますが、本日をもちましてエバンスブログ最終回となります。これまで私のブログのファンだと仰って遊びに来て下さったみなさま、ならびに私に関わってくださったたくさんのみなさま、二十年間本当にありがとうございました。
これからも銀座エバンスをご愛顧くださいますよう、心よりお願い申し上げます。
みなさまのご来店、心よりお待ち申し上げております。