SBGW033からみる初代グランドセイコーと復刻モデルのあり方
2024-10-15 11:00
ブログをご覧の皆様こんにちは、銀座エバンスの福永です。
今回ご紹介する時計はグランドセイコーのSBGW033、セイコー創業130周年記念限定モデルです。
2011年にセイコー創業130周年を記念して、グランドセイコーの初代モデルを復刻したSBGW033は、オリジナルの35mmに近い35.8mmという当時の雰囲気を感じられるケースサイズをもち、今なお根強い人気を誇ります。
SBGW033以降も初代モデルの復刻は行われましたが、ケースサイズは何れも38mm径と大型化し、現代的な見た目と仕上げの良さは感じられますが、穿った見方をするなら「これじゃない感」がどうしても感じらてしまい、改めてSBGW033の魅力に気付かされる方も多いのかもしれません。
グランドセイコー 初代モデルとは
今日のグランドセイコーと言えば、下の画像にある様なデザインを思い浮かべる方が多いかと思いますが、これは1967年に発売された「44GS」によって確立されたグランドセイコースタイルを、その後のモデルが現在に至るまで厳密に踏襲し製品展開を行った結果と言えます。
誰しもが思い浮かべるグランドセイコーらしさは、半世紀以上の時をかけて確立たものであり、その緊張感を持ったラインが描き出す、美しく実用性を併せ持ったグランドセイコーのデザインは、スイスやドイツ時計とは異なる、まさに日本製時計のお手本の様な存在であるといます。
その様に長年かけて揺るぎないイメージを築いたグランドセイコーですが、その始まりのデザインは「44GS」以降とは異なる雰囲気を持っています。
グランドセイコーのファーストモデルの印象を語弊を恐れずに表現するならば「ステレオタイプな腕時計」、それも世界に挑む高級時計というキャラクターから、当時のドレスウォッチのスタイルに力強さが加味されたデザインとなっておりますが、子細に目を凝らすことで他には無いセイコーらしさを感じることが出来ます。
また、初代グランドセイコーという知名度の高いモデルですが、その生産期間は1960年から僅か3年余りの短命モデルであり、今となっては貴重な存在と言えます。
厳格なルールが設けられた「44GS」以降のスタイルとは趣の異なる初代の雰囲気は、現在でも一部エレガンスコレクションに踏襲されますが、やはりオリジナルの持つ雰囲気を楽しむには、その復刻モデルが好適と言えるのではないでしょうか。
Cal.9S64
SBGW033に搭載されるCal.9S64は、自動巻が大半を占めるグランドセイコーの機械式モデルにおいて数少ない手巻式ムーブメントであり、2011年の登場以来、その特性上から趣向性が高いモデルへ多く採用されています。
現代の人々が腕時計に求める実用面を鑑みれば、機械式においても自動巻に需要が集まるのは明白の事実でありますが、その中で作り続けらえる手巻きムーブメントにおいては、グランドセイコーのこだわりが強く感じられるのではないでしょうか。
また、手巻きでありながらパワーリザーブを72時間とした、今日では標準的なスペックであるロングパワーリザーブを2011年の時点で実現している点も、実用性を重んじる高級時計であるグランドセイコーならではと言えます。
高級時計という生活必需品ではないものにこそ求められる要素は、所有欲を満足させてくれるモノとしての完成度の高さがあげられますが、それは数値で明確となるスペック以上に感覚に訴えかけてくるものも重要であり、手巻き時計であれば、その巻上感と言えるのではないでしょうか。
初代モデルの復刻に望まれるもの
グランドセイコーの初代モデル復刻については、下記のように生産が行われてきました。
2001年
イエローゴールドケース SBGW004 300本限定
2011年
ステンレスケース SBGW033 1300本限定
イエローゴールドケース SBGW040 130本限定
プラチナケース SBGW039 130本限定
2017年
ステンレスケース SBGW253 限定1960本
イエローゴールドケース SBGW252 限定136本
プラチナケース SBGW251 限定136本
2020年
ブリリアントハードチタンケース SBGW259 限定本数無し
イエローゴールドケース SBGW258 限定本数無し
プラチナケース SBGW257 限定本数無し
2024年
ピンクゴールドケース SBGW314 50本限定
しかしながら、最もグランドセイコーらしいケース素材である、ステンレスに80ミクロンの14金張りを施した仕様については、未だ復刻モデルの生産が行われていません。
その大きな理由としては、今日のグランドセイコーの置かれるポジションに照らし合わせた場合、チタンなどの非貴金属素材に加え先端素材の採用においては積極的に行える一方で、金無垢ケースの下位互換である金張りケースの製品化は難しいと言わざるを得ない現実があるのだと思います。
グランドセイコーの歴史を語る上で欠かすことが出来ない「金張り」という象徴的なケース仕様が復刻されず、1960年代当時は公式に販売流通されなかった幻のステンレスケースモデルがSBGW033を通して現代に復刻された、時間とステージの変化がもたらす抗えない矛盾に思いを馳せ、それを含めて楽しむことが初代復刻モデルとの接し方であり、時代が求めたものなのでしょう。
最後になりますが、今日の高価格帯のブランドにおいて金張りケースという、時代に逆行するようなケースの採用はすぐには叶わぬ夢なのかもしれませんが、高級時計市場がもう少しだけ成熟し、初代モデルに対する理解がもう少しだけ深まる事があるのならば、金張りケースという当時の空気を感じられる仕様の復活もあるのかもしれません。