グランドセイコー基礎知識
2021-06-15 11:30
ご覧頂きましてありがとうございます、銀座エバンスの福永です。
グランドセイコーは国産最高峰のブランドとして、スイスを中心とした高級時計ブランドと比肩する存在ですが、その知名度の高さに対してグランドセイコーがどのような時計であるのかは、まだまだ広く知られていないのではないでしょうか。
そこで今回は、グランドセイコーの誕生からこれまでを、そして現在のグランドセイコーの特徴をコレクションごとに、そしてムーブメントのバリエーションから体系的にご紹介してまいります。
1960年:グランドセイコー誕生
まずはじめに、グランドセイコーとはどの様な時計なのか?、その答えを1960年と2017年、この二つのポイントとなる年から紐解いてみたいと思います。
グランドセイコーの誕生は1960年にまで遡ります。当時はスイス製が高級時計の代名詞とされていた時代であり、セイコーはそれまで培ってきた技術の粋を結集して、「世界に挑戦する国産最高級の時計を作る」という志のもと、グランドセイコーを生み出しました。
それは同時に、国産時計では初となる、スイス・クロノメーター検査基準優秀級規格に準拠したモデルの誕生でもありました。
そして、翌年1961年には時計の輸入規制が緩和され、スイス製高級時計の流通量が増加する状況の中、それらを越えていく使命を課せられた時計こそがグランドセイコーと言えます。
1967年には現在のグランドセイコーにとって、外装のデザイン面で大きな功績を残す44GSが発表されました。44GSはその意匠から、3つのデザイン方針、それらを実現させるための9つの要素を定義し、グランドセイコーのデザイン理念”セイコースタイル”を確立するに至りました。
その後も、グランドセイコーは精度の追求、卓越した外装の仕上げを持って国産時計のトップを独走し続けましたが、一方でグランドセイコーを買い求める層は愛好家など一部に限られ、長年にわたり販売面での成功を収める事が出来ない状況が続きました。
2017年:グランドセイコー独立
売上が低迷する中でも、グランドセイコーはいつの時代も、セイコーの技術の結晶とも言うべき素晴らしい製品を生み出して来ましたが、一般的にはセイコー=低価格な実用時計というイメージが定着しており、単価の高いグランドセイコーの売上を伸ばすには苦戦を強いられていました。
2010年以降、セイコーは停滞していたグランドセイコーの売上を回復させるべく、セイコープレミアムウォッチサロンの開設、そして2015年にはプレミアムブティックのオープンと、大々的なマーケティング戦略により売場を拡大していきました。
それら全ては、従来時計に興味がなかった潜在的な層を取り込むことを目標とし、販売店からの要請のもと高価格帯の商品を投入する事で、ラグジュアリーブランドを買い求める層の取り込み、そしてグランドセイコーとは最も距離の遠かった女性客の獲得へと繋がっています。
グランドセイコーは高価格帯に軸をおいた製品展開へシフトする事で売上を大きく伸ばし、新たなムーブメントの開発や、外装や文字盤などにコストをかけやすくなり、従来の製品では見られなった華のある雰囲気が与えられるに至りました。
急成長を続けるグランドセイコーですが、2017年にはセイコーブランドからの独立という大きなターニングポイントを迎えます。
グランドセイコーが誕生した1960年来、そのダイアルにはいつもGrand Seikoと共にSEIKOのロゴが配されていましたが、グランドセイコーのグローバル展開を進める中、ダイアルからSEIKOのロゴが取り除かれました。
それはラグジュアリーブランドとして、グランドセイコーを定着させるべく大きな決断でもありました。
グランドセイコーの製品展開
2021年6月現在、グランドセイコーは4つのコレクションに大別されています。
マスターピースコレクション
セイコーエプソンが誇るマイクロアーティスト工房が製作を行なう、スプリングドライブをベースに開発されるハイエンドモデルが揃います。
エレガンスコレクション
グランドセイコーとしては繊細なフォルムが与えられ、手巻やクォーツなどスリムなドレスウォッチとして活用できるモデルが並びます。初代復刻モデルやレディースモデルのバリエーションも多く展開されます。
ヘリテージコレクション
誰しもが思い浮かべるグランドセイコーのイメージを体現する、主力コレクションです。
スポーツコレクション
アクティブな雰囲気が特徴のスポーツコレクション、クロノグラフやダイバーズウォッチ、耐磁性能を備えたモデルなどがラインナップされています。
ドレスウォッチ然としたデザインではなく、グランドセイコーの新たな魅力が凝縮されたコレクションです。
グランドセイコーのムーブメント
グランドセイコーのムーブメントの製造拠点は国内に2箇所あり、機械式の聖地である、盛岡セイコー工業の「グランドセイコースタジオ雫石」、クォーツそしてスプリングドライブを生み出したセイコーエプソンが誇る「信州 時の匠工房」と、いずれも世界有数のマニュファクチュールであり、最先端の技術と最高レベルの匠の技を有しています。
9S メカニカルムーブメント
世界最高峰の腕時計を目指すグランドセイコーは、パーツの設計から、仕上げに至るまで徹底した品質を求め組み上げられ、それは「新GS規格」と呼ばれる、クロノメーター規格を上回る高い精度を実現しています。
Cal.9SA5 自動巻ハイビート
- 自動巻
- パワーリザーブ80時間
- 36,000振動/時
- 平均日差+5秒~-3秒
- 2020年に誕生したグランドセイコー史上最高のムーブメント、デュアルインパルス脱進機、ツインバレルを備え、高振動とロングパワーリザーブを両立
- 搭載モデルはSLGH002やSLGH005など
Cal.9S86 自動巻ハイビートGMT
- 自動巻
- パワーリザーブ55時間
- 36,000振動/時
- 平均日差+5秒~-3秒
- Cal.9S85にGMT機能を付加
- 搭載モデルはSBGJ251やSBGJ233など
Cal.9S85 自動巻ハイビート
- 自動巻
- パワーリザーブ55時間
- 36,000振動/時
- 平均日差+5秒~-3秒
- 41年の時を経て再び開発されたハイビートムーブメント
- 搭載モデルはSBGH279やSBGH215など
Cal.9S68 自動巻3DAYS
- 自動巻
- パワーリザーブ72時間
- 28,800振動/時
- 平均日差+5秒~-3秒
- Cal.9S65の地板を拡大した大型ケース用
- 搭載モデルはSBGR307、SBGR309
Cal.9S66 自動巻3DAYS GMT
- 自動巻
- パワーリザーブ72時間
- 28,800振動/時
- 平均日差+5秒~-3秒
- Cal.9S65にGMT機能を付加
- 搭載モデルはSBGM221
Cal.9S65 自動巻3DAYS
- 自動巻
- パワーリザーブ72時間
- 28,800振動/時
- 平均日差+5秒~-3秒
- Cal.9S55の後継ムーブメント、巻上げ方式をリバーサー式に変更し硬化処理を施すことで耐久性の向上、天真の改良により対衝撃性の向上、基本的なスペックを格段に向上
- 搭載モデルはSBGR317やSBGR261など
Cal.9S64 手巻
- 手巻
- パワーリザーブ72時間
- 28,800振動/時
- 平均日差+5秒-3秒
- Cal.9S54の後継機、パワーリザーブを50時間から72時間へ向上
- 搭載モデルはSBGW263やSBGW257など
Cal.9S63 手巻スモールセコンド
- 手巻
- パワーリザーブ72時間
- 28,800振動/時
- 平均日差+5秒~-3秒
- グランドセイコーとして初のスモールセコンドとパワーリザーブ表示
- 搭載モデルはSBGK007やSBGK009など
Cal.9S27 小型自動巻
- 手巻
- パワーリザーブ50時間
- 28,800振動/時
- +8秒~-3秒
- 9Sキャリバー20周年を記念して設計
- 搭載モデルはSTGK003やSTGK015など
9F クォーツムーブメント
世界最高峰の性能を持つ9Fクォーツは、機械式のように太く重い針を動かす「ツインパルス制御モーター」、クォーツとしては異例の精度調整が可能な「緩急スイッチ」を備えるなど、従来のクォーツが持つイメージを大きく塗り替えました。
Cal.9F86 クォーツ日付カレンダー GMT
- 年差±10秒
- 搭載モデルはSBGN003やSBGN021
Cal.9F83 クォーツ日付曜日カレンダー
- 年差±10秒
- 搭載モデルはSBGT235やSBGT238など
Cal.9F82 クォーツ日付カレンダー
- 年差±10秒
- 搭載モデルはSBGV233やSBGV245など
Cal.9F62 クォーツ日付カレンダー
- 年差±10秒
- 搭載モデルはSBGX218やSBGX265など
Cal.9F61 クォーツ
- 年差±10秒
- 搭載モデルはSBGX335やSBGX341など
9R スプリングドライブムーブメント
セイコー独自の技術であるスプリングドライブは、動力源にゼンマイ、制御システムにICと水晶振動子を用いる事で、機械式ならではの力強いトルクと、クォーツでしか成し得ない高精度を持ち合わせたハイブリッドムーブメントです。
また、流れるように滑らかな秒針の動き(スイープ運針)もスプリングドライブならではの特徴です。
Cal.9R01 手巻スプリングドライブ8DAYS
- 手巻スプリングドライブ
- パワーリザーブ192時間
- 平均月差±15秒
- ハイエンドモデルを手掛けるマイクロアーティスト工房が始めて手掛けたスプリングドライブ
- 搭載モデルはSBGD201やSBGD205など
Cal.9R02 手巻スプリングドライブ3.5DAYS
- 手巻スプリングドライブ
- パワーリザーブ84時間
- 平均月差±15秒
- マイクロアーティスト工房製
- 搭載モデルはSBGZ003やSBGZ005
Cal.9R86 自動巻スプリングドライブクロノグラフGMT
- 自動巻スプリングドライブ
- パワーリザーブ72時間
- 平均月差±15秒
- 2007年誕生、世界で最も高精度なぜんまい駆動のクロノグラフであり、グランドセイコー唯一のクロノグラフムーブメント
- 搭載モデルはSBGC201やSBGC223など
Cal.9R66 自動巻スプリングドライブGMT
- 自動巻スプリングドライブ
- パワーリザーブ72時間
- 平均月差15秒
- Cal.9R65をベースに2年の開発期間を経て2006年に誕生、スプリングドライブ初のGMT機能を備える
- 搭載モデルはSBGE253やSBGE205など
Cal.9R65 自動巻スプリングドライブ
- 自動巻スプリングドライブ
- パワーリザーブ72時間
- 平均月差±15秒
- 自動巻きスプリングドライブのスタンダードとして、1999年に発表された初期型機をさらに4年の歳月をかけ開発された、生産性、メンテナンス性、耐久性に優れたムーブメント
- 搭載モデルはSBGA283やSBGA229など
Cal.9R15 自動巻スプリングドライブ
- 自動巻スプリングドライブ
- パワーリザーブ72時間
- 平均月差±10秒
- 自動巻きスプリングドライブとして最もスタンダードなCal.9R65を、より高精度に特別調整したムーブメント
- 特に優秀な水晶振動子を採用する事で、平均月差±10まで精度が追い込まれ、その証としてローターにはイエローゴールド製の獅子の紋章があしらわれる
- 搭載モデルはSBGA361やSBGA290などの金無垢モデル
グランドセイコー型番号の法則
グランドセイコーの各コレクション、そしてムーブメントのバリエーションをご紹介してきましたが、最後にグランドセイコーの型番について触れてみたいと思います。
グランドセイコーは、先述した4つのコレクションにより、豊富なバリエーションのモデルが用意されていますが、 型番に関しては基本的に搭載されるムーブメントにより決定されます。
多くのメーカーでは、モデルや時計の形状から型番号が決定されますが、グランドセイコーはムーブメントが主体となった型番でありSBGH277など、前半が4つのアルファベット、後半が3つの数字表されます。
例えば、SBGHを冠するモデルのムーブメントはハイビート自動巻のCal.9S85であり、これを踏まえて下の画像を見ていくと、ヘリテージコレクション、エレガンスコレクション、スポーツコレクションと多くのモデルが並びますが、いずれも搭載されるムーブメントは9S85であり、型番はSBGH○○○となっています。
さらに、SBGH277のアルファベット部分を細かく見ていくならば、Sはセイコーを、Bは男性用(女性用はT)、Gはグランドセイコー、Aはムーブメントの9S85を表しています。
*一部例外として、9SA5を搭載するモデルに関しては、SLGHの型番が与えられています。
後半の数字部分については明確な決まりはないようですが、コレクションごとに近い数字や連番が与えられています。
グランドセイコー今後の展望
1960年の誕生以来、技術面に関しては世界屈指のレベルにありながら、時代に取り残されたグランドセイコーはラグジュアリー市場への進出に活路を見出し、国内はもとより海外市場においても、その存在感を年々増してきています。
また、ブランドが広く認知され流通量が増え続ける事で、過去の名品や限定モデルなどに再びスポットがあたり、手頃な価格で手にすることが出来る中古市場での取引が活発になってきており、今後の展開がとても楽しみなブランドの筆頭がグランドセイコーではないでしょうか。