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グラスヒュッテ・オリジナル「パノマティックルナ」

2024-08-20 11:00

こんにちは、銀座エバンスの稲田です。
本日はグラスヒュッテ・オリジナルから「パノマティックルナ」のご紹介です。

グラスヒュッテ・オリジナルとは

1845年、今から約180年も前にドイツのザクセン州”グラスヒュッテ”という小さな町に工房を建てたのがはじまりです。「アドルフ・ランゲ」率いる優秀な数人の時計職人達がこの街の住人に技術を伝え始め、やがて彼らは独立時計職人になりました。1851年のロンドン万博で、ランゲ製作の懐中時計が第一位に選ばれたことで、グラスヒュッテという街からドイツ時計産業が花開いたのです。

1878年には「モリッツ・グロスマン」による”グラスヒュッテドイツ時計製造学校”が設立され、時計師たちは更に腕を磨き、複雑時計や高精度の懐中時計など、次々といろいろな時計が開発されました。
前途洋々と思われたドイツ時計産業は、第二次世界大戦という惨劇による壊滅的な打撃を受け、ドレスデン一帯はソ連軍に占領されて東ドイツに組み込まれてしまいます。グラスヒュッテにある時計会社がすべて「グラスヒュッテ・ウーレン・ベトリーブ(GUB):グラスヒュッテ国営時計工業」に統合されてしまったのです。

その後、1989年のベルリンの壁崩壊をきっかけに、東西ドイツが統一、ドレスデンは再び復興を成し遂げ、”GUB”は民間企業となり、傘下にあった「A.ランゲ&ゾーネ」が独立。1994年には”ハインツ・W・ファイファー”前CEOが、GUBを買収し、民営グラスヒュッテ・ウーレン・ベトリーブ有限会社を「グラスヒュッテ・オリジナル」とブランド名を定めます。これまで大量生産だったGUBの体制を、少量でクォリティー重視へと根底から見直しを図り、グラスヒュッテ・オリジナルは再出発を果たしたのです。そして2000年、なんと「スウォッチグループ」傘下となり、2003年には大きな社屋が完成。(この建物のすぐ隣がランゲ&ソーネの工房なんです!)小さな部品製作から組み立てまで、すべてを自社内で行う「自社一貫生産」、真のマニュファクチュール、それがグラスヒュッテ・オリジナルという時計メーカーです。

グラスヒュッテとは

チェコ国境付近、ドレスデンのすぐ傍にある山々に囲まれたドイツの小さな町です。当時、グラスヒュッテは銀の鉱山採掘が盛んだったのですが、いよいよ銀が採れなくなり住民たちは困窮に陥っていました。先程も少し触れましたが、「A.ランゲ&ゾーネ」の創始者、アドルフ・ランゲがなんとかグラスヒュッテを救おうと、ザクセン政府に何度も嘆願書を提出し、資金援助を受けることに成功、数人の優秀な時計師たちと共に時計工房を開いたのがドイツ時計産業のはじまりです。

現在、今回ご紹介する「グラスヒュッテ・オリジナル」の他、なんと8社もこの小さな町に時計メーカーが集まっていることをお伝えしたくてこの項目を作りました。私はまだ訪れたことはないのですが、グラスヒュッテは一時間もあればゆっくり歩いて一周できる程、小さな町だそうです。そんなグラスヒュッテという町の駅を中心に、「A.ランゲ&ゾーネ」、「ノモス・グラスヒュッテ」、「モリッツグロスマン」、「ヴェンペ」、「チュチマ・グラスヒュッテ」、「ミューレ・グラスヒュッテ」、「ユニオン・グラスヒュッテ」、「ブルーノ・ゾンレー」という一流ブランドばかりが一所に集結しているのです。

特筆したいのは「WEMPE(ヴェンペ)」についてです。ヴェンペは140年以上続くドイツの有名な高級時計宝飾店で、ヨーロッパを中心に数十店舗もお店を展開しており、多くのコラボモデルが存在します。(上写真)

スイスのクロノメーター検定”C.O.S.C”はみなさんよくご存知だと思いますが、ドイツにはそういう検定機関はあるのでしょうか?(「クロノメーターとは?知っている様で知らない「クロノメーター」の事実」当社スタッフブログ記事です。お時間のある時に是非ご覧になってみてください。)
実はドイツでは、1910年にグラスヒュッテ天文台が建てられたのですが、ほぼ利用されることがなくなり荒廃してしまいました。長らく忘れられていたこの天文台を、2006年にヴェンペが買取ってドイツにクロノメーター検定を復活させたのです。そして自社ブランド「WEMPE」腕時計の製作をスタートしたのもこの年です。

ドイツクロノメーター検定はスイスクロノメーターと同じ検査基準ですが、違いはドイツクロノメーターはケーシングされた完成品で検定を行います。(内容:5姿勢・3温度(8℃・23℃・38℃)・15日間・精度→-4~+6秒)ちなみにドイツには三大クオリティ基準があり、ドイツクロノメーター規格の他、「グラスヒュッテ規格」、「パイロットウォッチ新規格”テスタフ”」この三つの厳格な公的規格です。テスタフとは、ドイツ時計「ジン」社長考案の”パイロットウォッチ”専用の公的規格で、時計に対して様々な厳しいテストを行い、極限状態でも使える究極の時計が目的の規格です。グラスヒュッテ規格については次のチャプターで詳しくお伝えします。

GLASHÜTTE I/SAとは

「GLASHÜTTE I/SA」とは、「GLASHUTTE in SACHSEN(グラスヒュッテ イン ザクセン)」という意味で、この原産地表記を印字していい基準(グラスヒュッテ規格)というものがあります。それは、ムーブメントを含むグラスヒュッテでの時計製作が、原価の50%以上を占めることであり、50%以上がグラスヒュッテ製でなければならないということです。そして、今回ご紹介するグラスヒュッテ・オリジナルはなんと、「95%」以上の部品を自社で製造しているものすごいメーカーなんですよ。2000年にスウォッチグループに加入したことで、グループ内の文字盤とケース工場の製品も採用できることもあり、世界的にも稀な生産体制を堅持するドイツを代表するマニュファクトリーを持つブランドなのです。

詳しくお話すると、マニュファクトリーの一階には”工具工房”があって、ここで特殊な工具の開発・製造をしています。まさか工具まで自社で作っているなんて、本当にすごいですよね。そして、小さな部品(歯車・ネジ・テンワ・香箱・緩急針など数百種類!)の製造を行う機械も設置されており、一階で厳格な検品に合格した部品だけが二階の部品加工工房へ、ここで様々な装飾加工が行われます。グラスヒュッテ・オリジナルの装飾は、ペルラージュ、グラスヒュッテストライプ、サンバーストなどがあり、手彫りのエングレービングを施すこともあります。

ランゲ&ゾーネ(上写真)でお馴染みの、「4分の3プレート」と「ネジ留めゴールドシャトン」、「青焼きのネジ」はグラスヒュッテ製ムーブメントには欠かせない装飾で、グラスヒュッテ・オリジナルももちろん備えています。特筆したいのは、青焼きのネジ:ブルースチール仕上げのネジのことで、同社では特殊な加熱装置を用い、ひとつひとつ職人が手で焼いて作っているんです!”銀色→黄色→茶色→赤→紫→青”と変化する色を見逃さず、大きさが様々な小さな小さなネジを、しかもすべてが同じ色味になるように、ひとつひとつ熟練の職人が慎重に手作業で作っているなんて…!このことを知った時、私は本当に感動しました。

すべての工程で機械だけでなく、手作業でグラスヒュッテ魂を一心に注いでいろいろな人の手で愛情込めて作られている腕時計。この記事を読んでグラスヒュッテ・オリジナルのことを好きになってくれる人がたくさんいることを心より願っております。

ローターの”GG”は、グラスヒュッテ・オリジナルの「過去と未来」を意味している

パノマティック・ルナとは

2003年初出のグラスヒュッテ・オリジナルの「”パノ”コレクション」の中のモデルのひとつです。「アシンメトリック(左右非対称)」をコンセプトとしたこのコレクションは、すべて時分針が左寄りの垂直デザインで、右側にカレンダーやムーンフェイズが配置されている革新的モデルです。2012年に文字盤を刷新し、一層視認性が優れたモデルへと進化しました。今では今回ご紹介する「パノマティックルナ」がこのパノコレクションのアイコンとなっています。

パノコレクションには”パノルナ・トゥールビヨン”、”パノマティック・カレンダー”、”パノグラフ”、”パノインバース”、”パノマティックインバース”、”パノマティックルナ”、”パノリザーブ”の7つのバリエーションがあり、その名の通り、パノグラフはクロノグラフモデル、パノリザーブはパワーリザーブインジケーター付モデル、「ルナ」が付くモデルは「ムーンフェイズ」が搭載されているモデルです。(ちなみに、パノインバースは「インバース=逆の」という意味を持つのですが、様々な部品の位置を反転することで、時計内部をよく見えるようにしている「スケルトン」モデルです)

今回ご紹介する「パノマティックルナ」の特徴のひとつである大きな日付は、一般的なビックデイト、ランゲ&ゾーネの”アウトサイズデイト”とも違う、二枚の円形のディスクを組み合わせた特許取得済みの「パノラマデイト」、一と十の位に仕切りのないすっきりとした洗練されたデザインの特別な機構です。

そして裏蓋は大きく開いていて、特徴的なローターの上に見えるのが、同社が開発した革新的な「ダブルスワンネック緩急針」です。(二つ上の写真)美しい白鳥の首のような形のバネをふたつ採用したこの緩急針は、左でアンクルを、右で歩度(精度・日差のこと)を維持することができ、調整は左右に取り付けられている小さなネジで行います。この小さなスワンネックの磨き上げはもちろん熟練の職人の手で仕上げられており、なんと、ひとつ作るのに2時間も掛かるそうです…!先程の青焼きのネジにしてもそうですが、 質実剛健なイメージのドイツ時計、なのにグラスヒュッテ・オリジナルの時計ってなぜかあたたかみを感じる。これって人の手がたくさん加わって完成された作品だからなんですね。知れば知るほど、奥が深く沼って行く、今回の記事を書いていてそんな風に感じました。

おわりに

いかがでしたでしょうか。私自身、初めてグラスヒュッテ・オリジナルの時計に触れ、調べて行くうちにどんどんその魅力に惹かれて、熱い記事となったと思います。「セネタ」や個人的にすごく気になる「シックスティーズ」のこともお伝えしたかったのですが、さすがにボリュームが大きくなり過ぎるのであきらめました。また機会があれば、これらの素晴らしい腕時計たちについてお話できればと思います。

この記事をご覧になって気になられた方は是非、私までご連絡下さい。
みなさまのご来店、心よりお待ち申し上げております。

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