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フィフティ ファゾムス②

2024-05-07 11:00

こんにちは。銀座エバンスの稲田です。
本日は「フィフティ ファゾムス第二弾」としてお話させていただきます。

フィフティ ファゾムス誕生秘話②

前回の私のブログ記事「フィフティ ファゾムス①」のつづきです。
”フィフティ ファゾムス愛”を熱く語る、ブランパン前CEOジャン=ジャック・フィスターと、フィフティ ファゾムスを作り上げた仲間たちのドキュメンタリーからの抜粋です。

ダイビング中に潜水時間が分からなくなり、生死をさまよう実体験をしたジャン=ジャック・フィスターの考えはシンプルで、「水中で時計を使えるようにしたい」ということでした。ブランパンの精鋭技術陣たちはこう考えました。海水の侵入を防ぐガスケットを時計ケースの溝に固定してバックプロテクターでカバーをする、そしてリング状の裏蓋を締めて完全に固定。するとガスケットも歪まず長期的な防水性が維持できるというわけです。ただ、リューズからの浸水が何よりの課題でしたが、ガスケットをチューブに取り付けることで解決し、フィスター考案の二重Oリングとリューズの密閉構造は特許を取得しています。

また、ダイバーはいつ潜水したかを忘れがちなので、水の中でも使えるベゼルが必要不可欠です。水の中でベゼルが逆に回転してしまうと大変なので、ベゼルを上から押し込むようにしないと回転しないという優れた仕組みを採用しました。みなさんご存知の「逆回転防止ベゼル」です。これはベゼルの12時位置の▼を分針に合わせることで、何時からでも正確な経過時間を瞬時に知ることができる、シンプルですが、画期的な機能なのです。

フィフティ ファゾムスのデザインは、フランス海軍のロベール・ボブ・マルビエ大尉の理想の時計スケッチより生まれました。潜水任務に必要なのは蛍光であること、数字はなるべく少なく、回転ベゼルは必須。これがオリジナルデザインの元となりました。そして1953年、ラ・スピロテクニーク(現在のアクアラング)を通じてスイス最古のブランパンに出会い、マルビエ大尉のデザインとフィスターのアイデアが融合し、フィフティ ファゾムスは誕生したのです。

ちなみに、フランス海軍が特にこだわったのは「耐磁性」で、耐磁性に優れた軟鉄製インナーケースを搭載した改良版を開発。フランス海軍に続き、スペイン、パキスタン、ドイツ軍のフロッグマン、前回のブログ記事でもお話したアメリカ海軍のSEALs(シールズ)、そして特筆すべきは海洋探検家であり、沈黙の世界という映画でアカデミー賞を受賞した「ジャック-イヴ・クストー」からも選ばれたことです。(沈黙の世界の撮影にフィフティ ファゾムスを実際に使用しました!)実はIWCのアクアタイマーのクストーモデルも存在するんですよ。(下写真)軍隊だけでなく、著名人までも虜にしたフィフティ ファゾムス。その無限の魅力についてもう少し深堀りしていきましょう。

いろいろなフィフティ ファゾムス

実はフィフティ ファゾムスには数十種類のバリエーションがあり、初代フィフティ ファゾムスは「ROTOMATIC INCABLOC(ロトマティック インカブロック:RI)」というロゴが入った12・3・6・9がインデックスに配置されたモデルです。(このロゴのモデルは初代のみ)美しい艶のある黒文字盤に夜光塗料はラジウムで、ベゼルにはプレキシガラスが採用され、ベゼルの文字もラジウムで数字を配しています。水中で万が一にも引き出されることがないようリューズは小さめに作られており、文字盤上の「BLANCPAIN」「Fifty Fathoms」などの文字は「エンボス」仕様で、衝撃によって文字が外れることのない作りになっています。

初代の発売から一年ほどで、ブランパンは他の市場でもフィフティ ファゾムスを販売するようになり、一番有名なのが先程も登場した「ジャック-イヴ・クストー」が経営していたダイビング機器の販売店の名を冠した「AquaLung(アクアラング)でした。他に「LIP」「technisub(テクニサブ)」、前回の私のブログでも触れた「US.NAVY」、これは実はプロトタイプで、2015年のフィリップスでなんと125,000CHF(当時の金額で15,625,000円!)で落札された幻のモデルや、「トルネク・レイヴィル」は別格で聖杯レベルですし、今回注目したいのが、「No Radiation(ノー ラディエーション)」です。(下写真)

当時、様々なブランドで腕時計に採用していた”ラジウム”が人体に悪影響を及ぼす放射性物質であることが問題となり、”トリチウム”へ移行していた時代、「放射性物質不使用」という大きなマークを付けた文字盤を製作。この一目見たら忘れられないインパクトの強い文字盤のモデル「No Rad」は、のちに復刻版として限定発売され、2021年に発表されて瞬く間に完売。現在では400~500万円のプレミアが付いています…!そして特筆すべきは次のチャプターでお話する「MIL-SPEC」。6時位置の気になる丸いマークが特徴のモデルです。さてこのマークは何を意味するのでしょうか。

MIL-SPECとは

このモデル抜きではフィフティ ファゾムスは語れないと言っても過言ではない「MIL-SPEC 」。前述したノーラディエーションのように、文字盤6時位置に特殊なマークが描かれており、一目でそれと分かるこのモデルは前CEOジャン=ジャック・フィスター自らの体験(減圧症になりかけたこと)で気付いたことを基に、1955年から「水密性」に特化したモデルを研究しており、その後開発・改良を加えることで誕生しました。

1955年の初代MIL-SPECは、シンプルな白い丸いマークを6時位置に配した文字盤で、浸水時には色が変わるというものでしたが、更に改良を加えたのが1959年製のバイカラー水深表示の「MIL-SPEC 1」です。(上写真)この特殊なマークは半分がペールブルー、もう半分がレッドのバイカラー表示で、浸水してしまった場合、ペールブルーの部分がレッドに変化します。これは浸水を知らせるというとてもシンプルですが、誰も思い付かなかった画期的な表示方法で、任務に就く海軍のダイバーたちにとって大いに役立つマークだったのです。というのも軍用腕時計というのは、酸素ボンベやマスク、フィンなどと同様、丁寧に扱われることがなく、任務の度違うダイバーズウォッチを支給されること、しかも誰が使用したか分からずどう扱われていたか分からない、もしかしたら故障しているかもしれない、というのがいつもの不安材料でした。そのことに気付いたフィスターは、研究を重ねて水密性表示機能を開発したわけなのです。

フランス海軍の厳しい要求のひとつ、「耐磁性」。これをクリアしたモデルが1960年代初めに開発された「MIL-SPEC Ⅱ」です。時計に対して様々なテストを行い、水中でのミッションに求められる基準をすべてクリアした完璧で唯一の腕時計として、アメリカ海軍に認められました。特に水中での特殊任務に就く精鋭部隊のダイバー達に重宝され、水密性表示はアメリカ海軍の標準規格として、軍にとって欠かせない機能となったのです。そして海軍だけじゃなく、前述したジャック・イヴ・クストーのドキュメンタリー映画、アカデミー賞受賞作品「沈黙の世界」にも採用されたのが、このMIL-SPECⅡでした。

2017年には「フィフティ ファゾムス トリビュート・トゥ MIL-SPEC」、世界限定500本の復刻版が発表されて大きな話題を呼びました。(上写真)2020年には「MIL-SPEC×Hodinkee」(ホディンキー:2008年に開設された世界的な時計メディア)ホディンキーのためのフィフティ ファゾムス、世界限定250本の復刻版が発表されました。(下写真)ホディンキー限定MIL-SPECは、2017年の限定モデルには付いていた日付を廃し、文字盤もサンレイからマットブラックへと、オリジナルを忠実に再現し、見事に完成された復刻版です。定価は14,400ドル(当時の金額:1,483,200円)でしたが、現在はプレミア価格の400万円以上が付いています…!今後もし、限定発売されることがあれば、なんとか手に入れたいモデルのひとつですね。

昨年2023年にはフィフティ ファゾムス70周年を記念して、いくつかの記念モデルを製作したのですが、私のひとつ前の記事「フィフティ ファゾムス①」でもご紹介した「Act3」は、MIL-SPECにオマージュを捧げたモデルです。素材には、当時も少し用いられていたレア素材、”ブロンズ”を採用。そのままブロンズを使用するとすぐに真っ黒になってしまうため、ブロンズにゴールドやシルバー、パラジウムなどを混ぜてあえて合金(9Kゴールド)にしており、酸化による緑青が発生せず、肌馴染みの良い絶妙な色合いに仕上がっています。ブランパン社にとって、特別なトリビュートモデル、それがMIL-SPECなのです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は誕生秘話の続きと、過去の名作達のご紹介がしたくて長話となってしまい、まさかまさか、第二弾でもフィフティファゾムスを語り尽くすことができず、第三弾(最終章)に続きます…みなさま、どうぞ最後までお付き合い下さいませ。

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