今さら聞けない セイコー「スプリングドライブ」のメリット&デメリットを解説
2024-12-02 11:00
エバンスの大貫です。今回はセイコーの誇る【スプリングドライブ】についてご案内したいと思います。
セイコーが開発した【スプリングドライブ】。機械式時計のような永続性と、クォーツ時計の様な正確性が特徴ということは、時計好きならご存じですよね。もちろんマーケティングするうえで、メリットを強調することは非常に大事ですが、デメリットに関しても把握しておいた方いいでしょう。購入後に「知らなかった・・・」とならないために。
スプリングドライブの特徴
【スプリングドライブ】は、セイコー独自のムーブメント機構で、もちろんセイコーでしか使われていません。機械式時計のゼンマイがほどける力によるトルクを動力源としながら、ICと水晶振動子により、正確に精度を制御する調速機構です。
クォーツ時計の様なバッテリー(電池)は存在せず、ゼンマイが動力となっており、機械式でありながらクォーツ並みの精度となっている点が最大の特徴。トルクが強いため重い針を駆動することが出来る事や、機械式時計よりも磁気に強いという点がメリットで、流れるような“スイープ運針”も目を引きます。
部品点数は一般的な機械式時計の倍近く、複雑な調速機構のため理論上は衝撃に弱いものの、特にグランドセイコー用の9R系のICには重力加速度検知機能が付いており、自動的に衝撃を緩和。また機械式の調速機と違い、非接触で調速するため、衝撃にも強い仕組みとなっています。
スプリングドライブの歴史
最新の技術の様に感じますが、実は特許の初出願は1978年であり、1982年より第一次開発がスタート。1998年のバーゼルフェアにてムーブメントの概要が発表されました。
翌年1999年に製品化され、発表当時はセイコーブランドから2種、クレドールでⅠ種が限定販売。『機械式時計の進化形』として発表されましたが、私の記憶では、当時それほど話題になっていなかったと思います。むしろ自動巻き発電の『キネティック(AGS)』、未来的な熱発電『サーミック』が記憶に残っていますね。
昨今人気のグランドセイコーにおいては、2004年から採用されています。スプリングドライブ = グランドセイコーと思っている方も多いと思いますが、意外と後発です。
スプリングドライブの仕組み
機械式ムーブメントが基本構造となっており、ゼンマイの動力を電池を使わず電気エネルギーへ変換し電子回路を動かします。機械式時計の様なテンプなどの脱進機部分が無く、 集積回路 (IC)と 水晶振動子 による『トライシンクロレギュレーター』と呼ばれる 独自の調速機構によって制御されています。
針を動かす輪列の最後に発電機が取り付けられえており、その僅かな電気信号をクォーツ(水晶)に通すことで、クォーツ時計並みの精度を実現しています。
以下はセイコーによる解説です。
①スプリングドライブは、機械式時計と同様に巻き上げられたゼンマイがほどける力で時計を動かします。
②このゼンマイの力のごく一部を磁石を使ったローターに伝え、ローターが回転することにより磁束の変化を生じさせ、電気を発生させます。
③生み出された電気はICを駆動し、水晶振動子を発振させます。水晶振動子は1秒間に32,768回振動(32,768Hz)します。
④水晶振動子の振動を分周回路と呼ばれる回路によって、1秒間に8回の信号(8Hz)に変換し、8Hzの周波数で一定の基準信号を出します。
⑤ICは水晶の基準信号とローターの回転数を比較しながら、ローターに磁力でブレーキをかけたり外したりして、基準信号の8Hzに合うようにローターの回転数を一定に保ちます。セイコー公式サイトより
⑥この結果、ゼンマイ→ローター→歯車→針の順に制御された動きを伝え、正確に時を刻むことができます。
スプリングドライブのバリエーション
【スプリングドライブ】として最もベーシックとなるモデルは、自動巻きのパワーリザーブ付きの仕様となりますが、これまで様々なモデルを展開しています。
GMT、クロノグラフといったスタンダードなものから、ソヌリ(定時に音が鳴る機能)やリピーター(音で時刻を知られる機能)といった複雑時計まで幅広く展開。機構的にトゥービヨンは不可能ではあるものの、機械式時計と同様の汎用性があります。
スプリングドライブの寿命
高価な時計ですので、最も気になる点は『寿命』ではないでしょうか。機械式時計は適切なメンテナンスを行うことで『一生もの』として使い続けることができますが、スプリングドライブも同様です。使い方とメンテナンス次第で生涯ご愛用できます。
かつて『セイコー』では、部品の保有期間は【生産終了から10年】とされ、メンテナンスに不安がありましたが、下記セイコーの案内の様に『グランドセイコー』においては10年を超えてもメンテナンスが可能となっています。
お客様にグランドセイコーを永くご愛用いただくために、修理の対応期間は限定しておりません。
グランドセイコーのアフターサービスは、グランドセイコーサービススタジオにおいて、高度の専門知識と技術を保有する修理技能士が、最後まで責任を持ち、できる限りお客様のニーズにお応えできるような体制をとっております。また、お客様にお買い上げいただいた製品の生産が続いている間は、時計の機能を維持するために必要な補修用性能部品を保有し続け、修理のご要望に対してはスムーズな対応を心がけております。
当該製品の生産終了後も、監督官庁の指導に基づくメーカーとしての部品保有期間10年を超えて、さらに長期間の修理ができる体制を整えております。
お客様がお持ちの時計は、使用状況によりそれぞれに状態が異なり、不具合箇所や修理に必要とする部品なども異なるため、製造時期に関わらず一旦お預かりし、一本一本、状態を確認した上で、修理できるよう最大限取り組んでおります。
今後もご満足いただけるアフターサービス体制を強化してまいります。グランドセイコー公式サイトより
なお『クレドール』では、明言はしないものの「 純正部品を長期保有し、的確な修理で対応します。 」とのことですので、安心ではないでしょうか。
スプリングドライブのデメリット
電池を使わないゼンマイ駆動で高い精度を実現し、耐久性も問題なく、上記で説明したように寿命や交換パーツの懸念もクリアしており、メリットが多いスプリングドライブ。
デメリットとしては、時計の単価が高く、メンテナンスがメーカーでのみの対応となる点でしょうか。弊社含め一般的な時計店ではメンテナンスはおろか、精度調整もできませんので、修理はメーカー一択となります。
スプリングドライブのメンテナンス事情
一部電子部品が入るとは言え、ほとんど機械式時計となりますので、定期的なオーバーホールは必要です。セイコーでは3年~5年を目安に行うことを推奨しています。
グランドセイコーの場合、費用としては基本料金が税込74,800円~(2024年11月現在)。 納期は5~6週間ほどで、ライトポリッシュが含まれます。グランドセイコーのメカニカルモデルも同様の費用・納期となっています。なお“ライトポリッシュ”は艶出し程度ですので、しっかりと傷を取りたい場合は、別途費用が掛かります。
以下はグランドセイコーのコンプリートサービスのご紹介です。さすが日本の企業なだけに、信頼性を感じます。
スプリングドライブの今後の期待
セイコー独自のスプリングドライブ。おそらく今後は小型化によるレディースモデルへの搭載や、薄型化などへ発展していくことと思いますが、個人的には『他社への供給』を期待したいとこです。
クオリティの高い機械式の9Sメカニカル・ムーブメントでさえ、他社への供給はありませんので、スプリングドライブは実現不可能と実感しているものの、いつかはスイスブランドのスプリングドライブ搭載機を見てみたいものです。