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時計素材の基本(風防編) /サファイアガラス・ミネラルガラス・プラスチック風防の違い

2020-02-07 11:00

 エバンスの大貫です。今回は、“風防”についてをチョイスしてみました。

ロレックスをはじめ高級時計をご所有、またご検討されてる方は、もちろん「サファイアガラス」という名称はご存じだと思います。非常に硬く、傷が付きにくい素材として知られ、最近では時計以外の工業用品に使われ始めており、スマートフォンやApple Watchへの採用でも注目されていますね。

ガラスの種類には他にもありますので、今回は時計のガラス(風防)に使われる素材についてご説明したいと思います。

パネライのラジオミール

「ガラス」ではなく、「風防」と呼ぶ理由。

ところで、なぜ時計のガラス部分を“風防(ふうぼう)”と呼ばれているのか、ご存じでしょうか。「風防」とは、風による悪影響を防ぐ器具のことを指します。これはガラスが普及する前、アクリル(合成樹脂)素材を使用していた時の名残で、「ガラス」でなはないため、「風防」と呼んでいました。

ロレックス ヴィンテージ サブマリーナ

現在、時計に使用されている風防素材は主に3種類ありますので、それぞれの特徴をご紹介して参ります。

①サファイアガラスの特徴

ブランドやメーカーによっては、「サファイアクリスタル」、「サファイアクリスタルガラス」とも呼ばれてます。 硬さの基準であるモース硬度(※)は【9】

※モース硬度とは主に鉱物に対する硬さの尺度の1つで、1~10までの整数値が設定されており、最高硬度はダイヤモンドの「10」になります

名前の通り「サファイア」を使用しています。しかし、天然のサファイアを使うと非常に高価であり、不純物もありますので、時計に使われるものは人工的に製造したサファイアなのですが、実際は「人工コランダム」が正しいのかもしれません。

コランダムの中で、結晶に含まれる不純物によって色が付くと一般的に「サファイア」(赤い場合のみ“ルビー”となる)と呼ばれますが、時計に使われているのは無色透明なカラーレス(無色)・サファイアとなります。現在、腕時計使用されるガラスの中ではで最も硬い素材です。もちろん天然のサファイアと同成分で、最大硬度のダイヤモンド(モース硬度:10)に次ぐ硬度を誇ります。

粉末状にした原料の酸化アルミニウム(Al2O3)を2000℃以上の熱で溶かして結晶化させ、その塊を薄くスライスし製造しています。製造には非常に時間がかかり、また加工が難しく量産ができないために高価な素材となります。

ロレックスのサファイアガラス
ロレックスのサファイアガラス

サファイアガラスのメリット

非常に硬く、傷がつきにくい(傷つかないわけではありません)ことが最大の特徴と言えます。加工の技術の向上により、クラシカルなドーム状や複雑なケースに対応した形状など、対応の幅が広がっています。

高級時計では、ほとんどのブランドが採用。またシースルーバック仕様のガラスもサファイアガラスが基本です。

サファイアガラスのデメリット

デメリットとしては、加工が難しく、基本的に高価な素材となります。また表面硬度は高いものの、素材に粘りがないために、割れる(欠ける)ことがあり、傷がついても磨くことができず、交換での対応となり、それなりに費用が掛かります。

ロレックスのサファイアガラスの傷
サファイアガラスの傷 角が欠けることが多い

無反射コーティングとは?

サファイアガラスは光の反射がしやすいために、メーカーによっては光の反射を抑える特殊コーティングが施されています。特にスポーツモデル系では視認性が大事になりますので、無反射コーティングが必要になってきます。

下記画像の様に、ガラスを斜めから見て、光に当てるとブルーに見えるコーティングが確認できます。光の透過率が高く、文字盤が見やすくなりますが、コーティング自体に擦れや剥がれなどが出てきます。

ちなみにロレックスのガラスには、基本的にコーティングは施されていませんが、近年のモデルより、レンズ部分(ガラスとレンズの間)に採用されるようになってきているようです。

ガラスの無反射コーティング
無反射コーティングの擦れ

②ミネラルガラスの特徴

「無機ガラス」とも呼ばれるミネラルガラス。正式には硼珪酸ガラスと呼ばれます。 モース硬度はおよそ「4~5.5」 。家庭用の窓ガラスと同じような素材と言えます。現在では安価な時計に多く使用されていますが、1970~80年代のミドルクラスの時計にも多く使われていました。

1970年代のオメガ スピードマスター
1970年代のオメガ スピードマスター

ミネラルガラスのメリット

加工が比較的容易で、変形ケースや独特なケースに合わせやすく、サファイアガラスに比べ軽量です。また製造コストも低く、価格と性能のバランスが良い点がメリットと言えるのではないでしょうか。

ミネラルガラスのデメリット

サファイアガラスに比べ傷がつきやすい素材ですが、傷がついてもサファイアガラスと同様に磨くことが出来ません。また、敢えてミネラルガラス採用モデルを探すことが難しい素材です。近年では高級時計にはあまり使用されなくなっています。

カルティエのマストタンク
傷がついたミネラルガラス

③プラスチック風防(プラ風防)の特徴

素材は合成樹脂やプラスチックでできており、「アクリル風防」、「プレキシガラス」、「有機ガラス」とも呼ばれます。モース硬度は【2】。指の爪で傷がつく程度です。

弾力性があり、割れにくい点が特徴。強度を高めるため、基本的にドーム状に成型しているものがほとんどです。

傷が付きやすいプラスチック風防は、1970年代からミネラルガラスやサファイアガラスが普及したことにより、現在はクラシックなモデルなど、一部のモデルに採用される程度で、徐々に使用されなくなってきました。 

パネライのドーム状のプラスチック風防
ドーム状のプラスチック風防

プラスチック風防のメリット

軽量で加工もしやすく、柔軟性に優れる素材です。細かい傷がついても磨くことが可能で、割れにくく交換の際もコストがかかりません。エイジングが楽しめる点も特徴と言えます。

プラスチック風防のデメリット

3つのガラスの中では最も傷が付きやすく熱に弱い。紫外線によって劣化(変色)が起こります。1970年以前のアンティーク時計ではプラスチック風防が中心に使われていますが、新品では選択肢が限られます。

現行モデルにおいても一部の商品にプラスチック風防が使用されています。今では趣味性が高く、アンティークの雰囲気があり、擦り傷も「味」として楽しむことができます。

ロレックスの味のあるプラスチック風防
味のあるプラスチック風防

風防素材/これからの発展。

上記の3つの中で、最も普及しているのがサファイアガラス。素材としても優れ、完成された素材です。年々加工精度が上がってきていることもあり、ケースそのものをサファイアガラス制作したり、文字盤の素材にも使用されています。

サファイアケースのビッグバン ウニコ サファイア オールブラック
サファイアケースのビッグバン ウニコ サファイア オールブラック Ref.411.JB.4901.RT

ロレックスでは、1970年に発売された初期のデイトジャスト・クォーツモデル Ref.5100(通称ベータクォーツ)にサファイアガラスが初採用され、1970年代後半から一般モデルに普及されてきました。

1978年登場のロレックス デイデイト・クォーツ Ref.19018
写真は1978年登場のデイデイト・クォーツ Ref.19018

サファイアガラスが一般的になり50年近く大きな変化がありません。もちろん、表面コーティング加工や、カラー化、ケース素材への流用など、加工技術は向上していますが、風防としての素材の進化は止まっている現状です。最先端技術を得意とする「リシャール・ミル」においても、未だに風防はサファイアガラスを使用しています。

現時点では、風防の技術の進歩はサファイアガラスで止まっています。ケースの素材やムーブメントの製造方法など、時計製造技術の進歩が進んでいますが・・・・・

サファイアガラスを超える風防素材を期待したいですね。

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