クラスプ?バックル?尾錠?名前が多すぎる腕時計の『留め具』を解説
2025-07-22 11:00
エバンスの大貫です。
今回は、時計のベルトに欠かせない【留め具】。時計のベルトには、金属製の「ブレスレット」と革やラバーなどの「ストラップ」に分けられますが、いずれも“留め具”が付いており、時計の脱着のためになくてはならないパーツです。
「ピンバックル」「Dバックル」「尾錠」など、いろいろな呼び名がありますが、その違いや特徴をわかりやすく解説します。
意外と多い留め具の呼び方
腕時計の【留め具】にはさまざまな呼称があり、混乱しがち。 以下は実際に使われている主な呼び名の一例です。
- クラスプ(CLASP)
- バックル(BUCKLE)
- ピンバックル
- 尾錠(びじょう)
- 美錠(びじょう)
- Dバックル
- Aバックル
- フォールディングバックル
- ディプロイメントバックル
- アルディヨン(アルディロン)バックル
- ディプロワイヤントバックル
- バタフライバックル
すべて「ベルトを留めるためのパーツ」を指している言葉ですが、形状や構造の違い・言語の違い・時計業界の慣習などから、日本国内においては、これだけのバリエーションがあります。
ブランド独自の名称も
また、下記の様に各ブランドでも独自の名称や言い回しがあり、余計に分かりにくくなっています。
オイスターロッククラスプ (ロレックス)
ロレックスの場合、「オイスターケース」や「オイスターブレスレット」等、堅牢なイメージを連想させる『オイスター』の名称をクラスプにも採用。下の画像の様なダブルロック仕様は『セイフティーキャッチ付き』が正式名称。

BDRバックル(パネライ)

ワンプッシュ三つ折れ方式中留(セイコー)

フォールドオーバークラスプ(パテックフィリップ)

ブレスレットのクラスプ(バックル)について
ブレスレットのクラスプは、基本的に同じような仕組みで折り畳み式の構造が採用されています。その中でもいくつか種類があるものの、ブレスレットの場合は留め具のパーツは“クラスプ”、または“バックル”のみの名称で呼ばれることが多いと思います。

開閉を容易にするプッシュボタン付きの物もありますが、上記の片開き式(フォールディング・クラスプ)が一般的。また以下の様に閉じた際に、留め金が目立たない両開き式(バタフライ・クラスプ)があり、ドレスウォッチのブレスレットに採用されます。

両開きタイプのバタフライ・クラスプは、「観音開き」とも呼ばれます。
ストラップに使用される留め具タイプとその名称
一方、ストラップ仕様の場合は呼び方が複雑なこともあり、混乱する場合もあります。ストラップ仕様では、メーカーや販売店などにより表現が多様で、「尾錠」「Dバックル」「フォールディングバックル」「ピンバックル」「Aバックル」「折り畳みバックル」「アルディヨンバックル」「ディプロワイヤントバックル」「ディプロイメントバックル」など、多数の呼び方があります。
① ピンで留めるシンプルなタイプ:「ピンバックル」「尾錠」
日本語では「尾錠」と表現する留め具。よく見る一般的なパーツです。ストラップにピンで留めることから「ピンバックル」と呼称され、他にフランス語で“留め金”を意味する「アルディヨン・バックル」やその頭文字をとった「Aバックル」と呼ばれます。 また、「尾錠」は“美錠”とも呼ばれることがありますね。

【特徴】
- ベルトの穴にピンを通して留める方式
- クラシックな印象
- ドレスウォッチにマッチ
【呼び方】
- ピンバックル:英語圏の一般的な呼び方
- 尾錠(びじょう):日本語での伝統的な名称
- 美錠(びじょう):上記の別称
- アルディヨンバックル:フランス語由来の呼び方
- Aバックル:アルディヨンの頭文字から
【メリット】
- スマートで見た目
- サイズ調整がしやすい
- 構造がシンプル で扱いやすい
【デメリット】
- ストラップに負担がかかる
- 着脱時に落とすリスクがある
② 折りたたんで留めるタイプ:「Dバックル」「ディプロイメントバックル」
日本語では「中留」。ベルトを固定しブレスレットの要領で開閉する、より脱着が容易となる便利なクラスプです。一般的には「ディプロワイヤントバックル」やその頭文字をとった「Dバックル」、 「フォールディングバックル」と呼ばれます。
“ディプロワイヤント”はフランス語で「展開する」の意味であり、英語では「ディプロイメント」となります。
脱着の度に、穴にピンを通すことが無いためにストラップの寿命も伸び、また 衝撃を受けても容易にストラップが外れない留め具です。

【特徴】
- 留め具を折りたたんで固定する仕組み
- 一度サイズを合わせると、以後の着脱が簡単
- 堅牢な印象
【呼び方】
- Dバックル:日本の時計業界でよく使われる略称
- ディプロワイヤントバックル:フランス語で「展開する」の意味
- ディプロイメントバックル:上記の英語読み
- フォールディングバックル:折りたたみ構造に由来
- 中留(なかどめ):日本語の表現
【メリット】
- ストラップが傷みにくい
- 落下のリスクが低い
- 着け外しが簡単
【デメリット】
- 構造がやや複雑
- 高価
- サイズ調整が少し面倒
便利なDバックルの起源
『Dバックル』の起源は古く、1909年12月にルイ・カルティエとジャガールクルトの創業者の一人であるエドモンドジャガーによって発明され、1909年12月に特許申請がされています。
もちろん特許の期限は既に切れているため、他のブランドでも同様のバックルが生産され、一般的に普及するようになっています。

その後、腕時計が普及すようになった1930年代には、よりバックルが工夫され、2枚のプレートとそれを覆うカバーで構成された金属製ブレスレット用の「フォールディングバックル」が誕生。現在のブレスレットのバックルの原型となっており、スイスのブレスレットメーカーである「ゲイ・フレアー」社が開発しました。

このような経緯から、レザーストラップは「Dバックル」、ブレスレットには「フォールディングバックル」の名称となるはずですが、現状は混在しています。
バックル交換時の注意点
メーカーによっては、モデルにもよりますが、オプションでバックルの用意があります。好み合わせて購入が可能ですが、注意点があります。
ピンバックルとDバックルでは、ベルト側の形状が異なることが多く、互換性がない場合があります。
そのため、バックルだけを変更するつもりでも、ベルトごと交換する必要があるケースもあるので、購入前に確認するのがおすすめです。
カルティエの場合、Dバックル仕様では、そもそも“穴”が無い為、尾錠での使用はできません。

まとめ
時計の“留め具”には、多くの呼び方があり最初は戸惑うかもしれません。
ですが、それぞれに特徴や意味があり、使い方や好みによって選ぶことができます。
「ピンバックル」「尾錠」= シンプルでクラシック
「Dバックル」「フォールディングバックル」= 便利で実用的
見た目の好みや使用シーンに合わせて、自分に合ったバックルを選んでみてくださいね。