エバンスブログ

エバンスブログ

H.モーザー「エンデバー・センターセコンド ジェネシス」

2025-01-07 11:00

こんにちは、銀座エバンスの稲田です。
本日はH.モーザーから「エンデバー・センターセコンド ジェネシス」のご紹介です。

H.モーザーとは

1828年、時計師である”ヨハン・ハインリッヒ・モーザー”が、ロシアのサンクトペテルブルグで「H.モーザー&Cie」を設立したのがはじまりです。彼は中東から東アジア諸国にも販路を広げ、ロシア皇帝にも愛用されていたことから、その名は少しずつ広まって行きます。やがて生まれ故郷であるスイスのシャフハウゼンに戻り、時計師だけにとどまらず、様々な事業の開拓に取り組みます。

その事業とは、シャフハウゼンの象徴である”ライン川”を最大限に活かして水力タービンを設置したり、スイス最大のダムを建設して水力発電の会社を設立したり、更には鉄道事業にも共同設立者として参画したりと、モーザー氏はこの土地の開拓リーダーとなり、今もなお彼の功績が語り継がれている、銅像が作られた程の偉人なのです。なお、モーザー氏がシャフハウゼンに戻った時に一家が暮らす邸宅を建設したのですが、現在この素敵な建物はH.モーザーのミュージアム「シャルロッテンフェルズ」となっており、過去の素晴らしい作品が収められているそうです。一度は訪れてみたい場所のひとつですね。(下写真)

その後、ロシア革命やクォーツショックにより一度休眠したH.モーザーですが、モーザー氏の曾孫にあたるニコラス・バジルガーとIWCの技術部長ユルゲン・ランゲ博士によって復活しました。なぜ、IWCの技術部長が?と疑問に思う方もいらっしゃると思うので、次のエピソードを付け加えておきます。実は、モーザー氏がシャフハウゼンに帰郷して数々の素晴らしい功績を残して皆に讃えられ、尊敬されていた頃、IWC創業者である”フローレンス・アリオスト・ジョーンズ”が、スイスで事業を始めようとしたのですが、保守的なフランスの事業家達に拒否されてしまいます。その時に、モーザー氏が手を差し伸べ、モーザー氏所有の建物に時計工房を開いて「インターナショナル・ウォッチ・カンパニー(IWC)」を設立したことがIWC社のはじまりなんです。

このことを知ったIWCの技術部長、ユルゲン・ランゲ博士がH.モーザーの作品のコレクションを始め、モーザー氏の曾孫であるロジャー・ニコラス・バジルガーと出会い、2002年「Moser Schaffhausen AG」を設立し、「H.Moser&Cie.」を商標登録して見事、復活させたという訳です。

復活したH.モーザー

2006年のバーゼルフェアで、”新生H.モーザー”は「パーペチュアル1」「モナード」「モナード・デイト」「マユ」という4つの新しいコレクションを発表。この中のパーペチュアル1が同年のGPHG(ジュネーブ時計グランプリ)で”コンプリケーテッド・ウォッチ賞(複雑時計部門第一位)”を受賞、このことにより一気に世界の時計愛好家達にその名が知れ渡りました。

特筆したいのが、このGPHG受賞作品に搭載されているムーブメントの設計者が、ここエバンスにも一度だけ入荷したことのある、あのハリーウィンストン「オーパス7」(上写真)の設計者であり天才時計師の「アンドレアス・ストレーラー氏」なのです!彼は複雑機構専門工房”ルノー・エ・パピ”の主任時計師として4年間勤めた後、アンティーク時計の修復などを行っていましたが、クロノスイスにはじまり、H.モーザー、モーリス・ラクロア、ハリーウィンストンなど、すごいブランドへ提供するためのムーブメント開発を行い始めたことで、知名度がぐんと上がり、彼の作るムーブメントに世界中の時計愛好家たちが夢中になりました。もちろん、ご自身のブランドも立ち上げておられ、今では”選ばれし者たちのための時計師”として、時計師が尊敬する時計師なんだそうです…!

H.モーザー社は小さな部品から脱進機(速度を一定に保つための機構。緻密な部品同士を組み合わせたもの)、ヒゲゼンマイまで自社で製造を行うことのできる数少ないマニュファクチュールです。(というのもヒゲゼンマイまで作れるブランドはスイスでも数社しかないのです)そのおかげで、2012年に遂に経営難に陥って危機的状況に面してしまった時、現在のCEO”エドゥアルド・メイラン”氏のご家族、メイラン家の経営する「MELBホールディングス」が、H.モーザーは小さなメゾンでありながら完全なマニュファクチュールであることと、これまでの素晴らしい作品に可能性を感じ取ったことで、2013年に無事傘下に収まることが実現し、経営を継続することが可能となったのでした。

エンデバーとは

ミニマリスティック(最小限主義)でありながら、クラシックなラウンドをユニークかつ現代的に再解釈した、平凡ではないデザインが特徴のコレクションです。必要最小限の要素のみを残す「レイ・イズ・モア(少ないほど豊かである)」をコンセプトとし、代表作は美しいグラデーション加工のシンプルな三針文字盤のモデルです。

これは「フュメダイアル」といって、”フュメ”とはフランス語で”煙”を意味するのですが、立ち上がる煙のようなグラデーションを描いているように見える、非常に美しい文字盤です。この繊細で深いグラデーション文字盤は、熟練の技術者の手作業によるものであり、ひとつひとつ中央から円の外側に向けてラッカーの吹付による慎重な作業が必要で、2008年よりほぼ全てのモデルにこのフュメダイアルが採用されています。(上写真)

真鍮製の文字盤に”放射状”の仕上げを施し、この上にメッキを掛けるのですが、例えばブルーのラッカーをスプレーガンを用いて何層も何層もグラデーションをつけながら手作業で吹付けを繰り返す。このフュメダイアルをつくる作業だけでなんと、200を超える工程が必要だそうです。

また、エンデバーコレクションの中には、「ベンタブラック」というまるでブラックホールの中に浮いているような究極のミニマリズムを表現したモデルが存在します。これは、人間が作り出した中で最も暗いとされる素材で、光量子の99.965%を吸収する数百万もの”カーボンナノチューブ”(信じられないほどの小さくて細いチューブの”森”と表現されることもある)で構成されます。針しかないモデルでは、光によって反射することがないので、まるで宙に浮いているかのような錯覚を覚えます。(上写真)

このベンタブラックという素材は、宇宙衛星搭載機器や美術品などのコーティング材として用いられ、2020年にはBMWより「地上で最も黒いVENTA BLACKを纏ったBMW」が世界で初めて製作され、腕時計界では今回ご紹介する「H.モーザー社」が世界初です。H.モーザーのエンデバーとは、時代に流されない、唯一無二の時計愛好家のための芸術作品なのです。

エンデバー・センターセコンド ジェネシスとは

2020年より、再び復活したH.モーザーのCEO”エドゥアルド・メイラン”が独立系ウォッチブランドとしては初めてeコマース及びCPOプラットフォームの構築、仮想通貨での支払い対応の開始、デジタル活用サービスの拡大を積極的に行っています。Web3.0事業の推進にも力を入れ始め、2022年遂に今回ご紹介する「エンデバー・センターセコンド ジェネシス」を発表しました。

一見すると懐かしいドット絵(ピクセルアート)の何かのアートかな?と思いますが、よくよく見てみるとガラス一面「QRコード」が刻印されており、更にじっくり見ていくとまるで画面からはみ出したかのような形状の 、ピクセル化したベゼルとリューズが付いているではありませんか!しかも最近よく耳にする”3Dプリンター”を使ってチタンで作った完全にアートなベゼルとリューズ、マイクロブラスト(マット仕上)加工のステンレスケースと組み合わせた世界発のこんな腕時計、生まれて初めて見たんですけど!

なんでこんな形状をしているかというと、実はこれには意味があり、先述した”Web3.0”すなわち「分散型インターネット」(ブロックチェーン技術によりインターネットが更に分散されたもの)を活用し、専用の「メタバース空間」(仮想空間)に行けるというこれまでにないサービスの提供を行っており、デジタル空間を想起させる形にしたんだそうです。他にも時計の真贋証明やデジタル資産管理、次回の限定モデルの優先購入権やH.モーザーのコミュニティ会員権など、まったく新しい顧客体験ができる新しいサービスも実施中とのことです。

QRコードを腕時計にする。一体誰が今までにそんなことを思い付くことができたでしょうか。思い付いたとしても、実際に作って販売をするという、新CEOエドゥアルド・メイランという人は本当にすごいです…!実は彼がCEOになってから発表したモデルが話題を呼んで、日本でも少しずつ浸透し、今まで時計に興味になかった人までもが興味を持ち始めたりと、H.モーザー愛好家が増えて来ているのです。超有名な某〇〇ウォッチそっくりな「スイス・アルプ・ウォッチ」、まさかの本物の”スイスチーズ”でできた「スイス マッド ウォッチ」、そしてまたまたまさかの”スイス原産の植物”を時計本体のケースに植えた「モーザー・ネイチャー・ウォッチ」(生きてるので一日二回の水やりが必要だそうです!)、そしてこのQRコードウォッチ。前人未到で前代未聞、本当にこれからも楽しみ過ぎますね、H.モーザー!

おわりに

いかがでしたでしょうか。一目見た時、えっ?何これ?何かのオブジェかな?と革ベルトが付いていないと腕時計だとは全くわからない、今まで見たことのない衝撃的な形状にとても驚きました。そして、H.モーザーのモデルは、ひとつひとつにコンセプトがあるのだと感じました。まさに”手元に置いておけるアート”。この一言に尽きます。

この記事を読んで気になられた方は是非、一度実際にお手に取ってご覧になってみていただきたいです。みなさまのご来店、心よりお待ち申し上げております。

銀座エバンス

  • 東京都中央区銀座5-5-11(みゆき通り) 

  • TEL:

    03-6274-6740(11:00~20:00)


エバンス オンラインショップ