こんにちは。エバンスの大貫です。
時計の素材して一般的になってきたセラミック素材。近年技術の向上により急速に発展してきた素材です。今回は、時計の新たなマテリアル【セラミック】について調べてみました。
セラミックは美しく艶があり、硬く、傷がつきにくいメリットがあるものの、その特性上、非常に加工が難しく、手間やコストの問題で、普及には時間が掛かりましたが、近年では技術の発展により、ハイブランドからリーズナブルなモデルまで広く使われる様になっています。
時計素材としてのセラミック
最近の素材と思っている方も多いと思いますが、時計の素材としては、1986年にラドーより発表された「インテグラル」から量産化されています。また同年に限定モデルではありますが、「IWC」のダ・ヴィンチにもセラミックケースが採用されています。
それまでは工業用素材の延長として扱われてきたセラミック。転機となったのは2000年にシャネルから発売された「J12」です。貴金属のような美しく艶やかなブラックの質感や、高硬度による耐傷性、軽量でアレルギーフリーといった特性、ファッションを代表する「シャネル」が採用したことで、最新技術の高級素材として注目されてきました。
現在においては、時計全体をセラミック化することはもちろん、傷がつきやすいベゼル部分など、一部にセラミックを採用するメーカーが増え、一般的な時計の素材として認知されてきています。
また、以前はブラックのみのカラーが主流でしたが、その後ホワイトが誕生。さらにグレーやブルー、レッド、グリーン、ブラウンといったカラーセラミックや、マット加工、ヘアライン仕上げなどの表面加工も可能となり、素材しての幅が広がっています。
そもそも「セラミック」とは?
セラミック(セラミックス)とは、無機物を加熱処理し焼き固めた焼結体のことで、陶磁器やガラス、琺瑯も広くはセラミック(クラシック・セラミックス)となります。時計に使用する「セラミック」は、いわゆるハイテク・セラミックであり、人工鉱物や鉱物からなる多結晶粉末(パウダー)を原料としたマテリアルです。
時計向けとしては、硬さと靭性(粘り強さ)のバランスが重要。セラミックの「硬さ」は引っかき傷に対するものなので、衝撃による割れやすさとは別です。そのため、日常使いが前提となる腕時計としては、ある程度の粘り強さが必要となります。
ハイテクセラミックの原料
時計では主成分として、主に酸化ジルコニウムが使用されます。それ以外にも多くの種類があり、添加する素材も様々。メーカーやサプライヤーによって使用する材料や製造工程も異なります。
セラミックの成分一例
素材 | 特徴 | 硬度 |
酸化ジルコニウム | 硬いだけでなく、靭性(粘り強さ)があり、腕時計の外装素材として最適なセラミック。 | 1250~1400HV |
アルミナ(酸化アルミニウム) | 硬く、様々な薬品に対しても高い耐性があるセラミック。 | 1400~1800HV |
炭化ケイ素 | 非常に硬い。他のセラミックスに比べて高温域(1000℃以上)においても強度の低下が少く、耐摩耗性にも優れている。 | 2200 ~ 2400HV |
窒化アルミニウム | 白色で高い熱伝導性・熱衝撃性に優れる。 | 1000HV |
炭化ホウ素 | ダイヤモンドに次ぐ硬さの原料。戦車の装甲や防弾チョッキに使用され、軍需産業だけでなく、航空、宇宙産業にも使われている。 | 4000 ~ 4500HV |
酸化イットリウム | セラミックの結晶構造を安定化させる添加素材。 | - |
セラミックの製造工程
セラミックの製造は、大きく分けて2種類。1つは、有機バインダーと呼ばれる結合剤(つなぎ)を混ぜ、ペースト状にしたものを型に流して形を作る「インジェクション成型」。ペーストを圧力を加え金型に流したのち、溶剤により有機バインダーを取り除き焼結させる方法で、高熱を均一に加えて製造します。焼成の過程で、およそ3分の1に収縮するため、収縮を考慮に入れてデザインをする必要があります。
もう一つは、高密度のセラミックの塊を作り、CNCで切削して仕上あげる方法。精密なケースの仕上げが可能で、耐久性も高くなりますが、加工が困難のために多くの工程がかかり、結果、製品が高価となります。
セラミック素材の用途としては、ケースやベゼル、ブレスレットはもちろん、クラスプのボールベアリングやムーブメントのパーツ類、文字盤の素材にも使用されるようになってきています。
セラミックのメリット・デメリット
硬いという事が一番の特徴で、一般的なステンレスの3倍以上の硬度があり、非常に傷に強いということは知られています。原料にもよりますが、一般的なセラミックでは、硬さの単位を表すヴィッカース(HV)が1000~1200HV。ステンレスでは約200HV。サファイアガラスが1800HVとなりますので、非常に硬い素材ということが分かります。
また、ステンレスに比べ軽量で、抗アレルギー。非金属のため、熱さや冷たさを感じることが少なく、体温になじみます。紫外線による変色や磁気の影響もなく、メリットは非常に大きい素材です。
デメリットとしては、一般的にステンレス素材よりも価格は高めで、靭性や粘性は金属よりも劣りますので、脆性破壊(割れる)が起こりやすい素材です。そのため強い衝撃により、欠けや割れたりすることがあります。また、後加工が困難で、ステンレスのように磨きや再仕上などができません。
各メーカーのセラミック素材の特徴
ロレックスのセラムロムベゼル
ロレックスではベゼル部分にセラミックを使用しており、「セラクロムベゼル」と呼ばれています。2005年に誕生したロレックスのセラクロムベゼルですが、2013年に初登場した、セラミック製のツートンカラーベゼルが特徴的です。また彫り込まれた目盛り部分に、原子化したゴールドやプラチナの粒子をPVD加工で溝にコーティングすることで、高級感と高い視認性を得ています。
ウブロのセラミック
セラミックを自社開発するウブロは、一般的なブラックやホワイトのセラミック素材だけでなく、レッドやブルー、さらにはグリーンなどのカラーセラミックや、18金ゴールドとセラミックを融合させたウブロの独自素材「マジックゴールド」など、セラミックを含む様々なマテリアルを生み出しています。
オメガのセラミック
セラミックの取り扱いとしては後発になるオメガですが、今ではウブロに比類する素材の開発力が見られます。取り扱うセラミックのカラーはブラック、ホワイト、ブルー、グリーン、グレー、オレンジ、バーガンディなどなど。オメガでは耐久性の高い切削による製造方法を採用しているだけに、ヘアライン加工などの仕上げが可能となっています。また、ケースやベゼルだけでなく、文字盤にもセラミックを採用するなど、セラミックの使用の幅を広めています。
シャネルのセラミック
シャネルのセラミックは、なんといってもその美しさが際立ちます。自社内で生産するセラミックは、貴金属のような美しく艶やかなブラックの質感や、丸みを帯びたなめらかな造形など、ファッションブランドらしい仕上がりとなっています。
ゼニスのセラミック
ゼニスが独自に開発した「セラミナイズド・アルミニウム」が特徴的です。セラミックとアルミニウムを分子化し、融合させた素材で、アルミニウムの軽量さとセラミックの硬度を併せ持つ独自素材。カラーはマットブラックとなります。
IWCのセラミック
限定モデルではありますが、窒化ケイ素を原料とした、軽く熱に強い高性能セラミック「シリコンナイトライド」を使用したケースや、特殊チタン合金をベースに表面をセラミック化させた独自素材「セラタニウム」の開発。サンドカラーのセラミックなどユニークな使用方法が目に付きます。また、ムーブメントの細かなパーツ類をセラミックに置き換えるなど、セラミックの幅を広げています。
セラタニウム®はチタニウムに匹敵する軽さと堅牢性を持ち、セラミックと同等の耐傷性を発揮します。IWCが開発したこの素材により、いかなる形のコーティングも施すことなく、全体をブラックで統一した時計の制作が初めて可能になりました。
引用 https://www.iwc.com/ja/specials/innovative-materials.html
リシャール・ミルのセラミック
リシャール・ミルで使われるブラックやブラウンのセラミックは、「TZP」(Tetragonal. Zirconia Polycrystal)と呼ばれるセラミックを使用。イットリウムで安定させたジルコニウムが95%で、酸化アルミニウム・ナノチューブ・パウダーを2,000バールの圧力下で射出した高分子セラミック材。一般的なセラミックよりも20-30%優れた剛性を誇ります。
また、ホワイトのセラミックには「ATZ」と呼ばれる素材を採用してます。ATZは「Alumina Toughened Zirconia」の略で、酸化ジルコニウム76%、酸化アルミニウム(アルミナ)20%、酸化イットリウム4%で構成されています。通常のセラミックの20~30%ほど硬度をアップした特殊素材で、ヴィッカース硬さは1400HV。さらに変色がしにくい特徴を持ちます。
今後のセラミックの発展
近年ではグループ企業だでけなく、1メーカーにおいても「素材を作り出す」といったことができるようになってきています。
タグ・ホイヤーではカーボン製ヒゲゼンマイを開発・量産するなど、これまでは「不可能」といわれていた技術・応用が、続々発表されています。ゴールドやチタン、シリコンなどを用いて、特徴的な独自素材が誕生している昨今。セラミックも個性的なモノが出てくるのではないでしょうか。